三十.貝なしと(6)
「じゃあ、一息ついたところで。聞こうじゃないか、お前の話とやらを」
ユリはカップを置いて、俺と向き合った。リラックスするためか、ポニーテールをほどいた。桃色の髪が胸まで垂れ下がる。
「その前に、訊きたいことがあれば質問を受け付けるけど?」
「美月は無事か?」
「恋人としては合格の質問だけど、わたしはよく知らないの。ルナが帰って来たことだけわかっている。具体的にどこで何をしているかについては、ごめんなさい」
そうか。美月は最短距離で、直接父親に会いに行くのかもしれない。お姉さん的に慕っていたユリに接触していたかと思っていたが。
「訊きたいことは本当にそれだけなのかしら。シュータくんは、他に知るべきことがあると思うけど?」
……すまん、何のことを言っているのやらわからない。
「シュータくんはこれまで、いくつか矛盾や違和感を覚えているんじゃないかと思って。ルナや伊部くんが、話していないことは無かった? 望むなら、わたしは責任を持って全てを打ち明けます」
ユリは至って真面目だ。急にそんな提案をされても、わからないことや知らないことが多すぎてきちんと整理して話せないぞ。たぶん疑問はたくさんあるんだろうけど。
「しょうがないよね。当然のことだと思う。なら、わたしから自発的に一つ教えましょう」
ユリはストローでコーヒーをかき回した。氷がぐるぐる回る。
「超能力のことはご存じでしょう」
「ああ」
「超能力の仕組みはわかった?」
――なんとなく。今までのことで多少想像はついた。一番わかりやすかったのは、アリスの超能力だろ。物を出現させたり、消滅させたり。
あれって美月が使う、物質の転送や生成ができる装置と似た仕組みだろ。それ以外にも、磯上がナイフを取り出すのに使っていた。美月だって、アリスと戦うときに手首に付けたアイテムから水を放出させた。元になる科学技術があったんだな。
「そう。超能力は〈科学技術〉と〈身体拡張〉をミックスさせた最たる形よ。この時代の人間なら、装置や体内コンピューターを使って使用できる技術。――ただし異なるのは一点。肉体の細胞そのものが技術を使用できるよう、遺伝情報を書き換えてある」
細胞が科学技術を使えるようになっているのか。例えば……? 俺はノートとペンを目の前に出現させた。そこに見知った超能力を書き込んでいく。
「ユリ、これが判明している超能力の一覧だ。どういう技術が使われているか、知る限り書き込んで欲しい」
ユリは並べた超能力の下に、矢印を書いてそのメカニズムを記す。
・未来予知(ミヨ)→〈空欄〉
・瞬間移動(ノエル)→転送装置(=テレポート)
・空間改変(坂元)→タイムマシン・(伊部)
・肉体強化(石島)→身体強化(ユリ)
・物質生成・消滅(アリス)→物質生成装置
・呪い(佐奈子)→催眠剤(ルリ)
・透明人間(阿部)→形態変化
「こんなもんかしら」
俺はそのリストを見て愕然とした。あまり想像していなかったものまで含まれていたからな。さて、どこから突っ込むか。コップから水滴が垂れて、コースターに染みた。
「ミヨの欄が空白になっている。理由は」
「実代さんの超能力は特殊だから、話すとしてもすべてを打ち明けた後に話さないと、上手く通じないと思う」
「そう、なのか?」
誤魔化されたのか、実際にそうなのか判別はできない。ただ未来予知という技術は、未来にすら存在しないことは、美月の話でハッキリわかっている。ユリが微笑する。
「ちなみに、シュータくんの能力のことはいいの?」
「俺の能力がどういう科学技術を元にしているかくらい、バカでもわかる」
俺は真実に一歩でも近づきたいんだ。不要な質問は後回し。
「別のところから。ノエルの瞬間移動は、人やモノを瞬時に転送する技術がもとになっているって理解でいいか?」
「ええ、未来では転移装置を使うことで、モノでも人でも瞬間的にどこでも移動できる。惑星間の移動でも、数秒で可能よ。彼にはそんな芸当を生身でやってもらった」
そう考えていいなら、他の能力にも納得できることはある。石島の極限まで人体の能力を引き出すのだって、ユリの身体強化をコンピューターなしでやっているということだ。
佐奈子の呪いも、呪いをかけた物を通じて、動きを封じたり操ったりできるものだった。変態ルリの使う催眠術も似たような効果を持っていた。
「阿部の『形態変化』は、磯上が使っていたものかな。あいつはミヨに化けていた」
それに美月だって、雪山の精神世界で透明になって隠れていた。
「その通り。形態変化は、外形を自由に変える技術。周囲のコンピューターの視界をジャックして、モザイクをかけることもできるし、UNKNOWNとして見えるようにして、プライバシーを保護するのによく使われる。いわゆるAR(拡張現実)ね」
手の内は大体読めてきた。でも、そうなると気になるのが、坂元の項目だよな。タイムマシンというのは、時間を「遡る」ような技術のことか。




