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みらいひめ  作者: 日野
五章/石上篇  なごりをひとの月にとどめて
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三十.貝なしと

 目を覚ますと、そこは未来だった。まさかこの相田周太郎でも、流石に一千年眠りこけったとは思わない。タイムスリップして、未来にやって来たのだ。時間軸を移動したので、時間を「戻る」ときと同じ感覚だ。


 ぼんやりする頭を振って四方を確認する。白を基調とした、清潔感のある広い部屋だ。隣ではミヨがぐっすり眠っている。寝顔だけは天使のものだ。


「おはようございます。とはいえ、時差があって現在は正午らしいですがね」


 部屋の奥――キッチンからノエルが登場した。誕生会のままの服装で、こちらへ歩いて来る。無事、三人で未来まで来られたようだな。


「ここはどこだ?」

「伊部さんの……仕事場? みたいな。いつもコーヒー飲んで文句を言う例の場所ですよ」


 ああ、あのいつも同じ背景の。高原の別荘地みたいで綺麗な場所だと思っていたが、ここだったのか。でも、あの部屋じゃないみたいだな。もっと資料や書籍で散らかっていた気がするし、ディスプレイらしきものも無い。俺は窓を振り返る。ブラインドがしてある。


「一応外からは見えないように、とのことで」

「なるほど。で、当の伊部はどこにいる?」


 ノエルは奥の階段へと案内した。俺はミヨの脇腹をコツン、と蹴ってからノエルに付いて行った。まあじきに起きるだろ。


 二階に上がって、正面のドアを開ける。中央にはAKレー〇ングのような、長時間座る人向けの背もたれ椅子が一脚。その上であぐらを組んでディスプレイを見つめる男――伊部だった。初めて対面するな。ディスプレイのない方の壁には、大きくくり抜かれた窓があり、そとの開放的な景色が窺える。エアコンは点いていないのか。でもすごく心地よい。


「よう、初めまして」

「まさか、こんな形でお前と会うとは」


 伊部は俺に視線だけ向けた。もしかしてこいつ意外と背が高い。遠隔だと気がつかなかったな。それはそうと、取り込み中だったか?


「ルナの居場所を突き止めようと、情報収集中。進捗はない」


 それはご苦労だった。たぶん、俺たちが「戻って」から数時間経っているだろう。


「まあ、いいんだ。まずはようこそ、西暦三千年の世界へ。ここじゃ人間全員が体内にコンピューターを持ち、病気もしない、衣食住に事足りる、完全なる脱・資本主義社会だ。高速移動が実現し、人々は宇宙各地にコロニーを持って繁殖を続けている。ヴァーチャルとリアルの境界が無く、生活にハイテクが溢れている。エネルギーは天然由来で無尽蔵。

 以前の人類が、狩猟・移住社会、共同体の社会、身分階級の社会、競争・戦争の社会を経てきたとするなら、この時代のテーマは『共生』と『持続』あるいは『永続』かな。お前らの時代とは、原理が違う、考え方が違う。ちょっと驚くかもしれないが、まあ来たからには見聞を広めるために、これくらいの予備知識は持っておいた方がいい」


 伊部はそういうと、調査を再開した。俺は本当に未来にいるらしいな。既に違和感はいくつかある。


 伊部の手に取る書籍が、浮いている。で、それを遠くに投げると消えてしまう。つまりデータであって、ホログラムなのだ。そして些細なことなのだが、この家にはコンセントが無かった。どの機械もコードが一本もないのだ。地味に便利になってやがる。


「シュータ先輩、それだけじゃないんです。見て驚いてください」

 ノエルは、伊部の頭に手を伸ばした。するとノエルの手が、伊部の頭を透過した。


「え、は、なんで?」


「実はこの伊部さんも、ホログラムなんです。AIで作られたコピーの伊部さんらしいっすよ」

 そ、そうだったのか。全く気付かなかった……。伊部は椅子を回転させてこちら向き。


「そりゃそうだろ。非常時に備えて、ルナのデータの監視を二十四時間するんだ。もちろん何かあったら交替するけど、それ以外の時間はマニュアル化した俺に任せた方が効率的だろ?」


 確かに、伊部にも日常生活を送る必要があるからな。気が付かなかった。気が付かないで機械に悪態をついていたのか、俺は……。


「本体は、全く別のコロニーにいる。ところでさ、みよりんが起きたら作戦を立てよう。ルナにコンタクトを取るためにな。いいだろ?」


 ラジャー。そのためだけに来たからな。観光でも何でもない。と、そこへ


 ――ドン、ガシャーン!


 ドアがぶち破られた。敵襲⁉


「いた、シュータ」


 ミヨがいた。俺たちを捜していたのね。あと、ドアは丁寧に開けろ。完全に外れて床に落ちてしまっているが。


「おいおいみよりん、直してくれよ」


「優しく開けたつもりだったのだけど……」

 嘘つけ。三回も生物室のドアを破壊した女が何を言う。


「あら、意外と簡単に取り付けできるのね。ネジ要らず!」


 ミヨが嬉々としてドアに感心していた。それはそうと、三人とも集合したようだぜ。


「ま、じゃあ、ちょっくら方針でも決めるか。あ、コーヒー飲む?」

 実はお前がいつも旨そうに飲むコーヒー、気になっていたのだ。

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