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みらいひめ  作者: 日野
五章/石上篇  なごりをひとの月にとどめて
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二十九.八島の鼎(8)

 帰り道、セミがやかましく泣き続ける木陰の下で、美月が突然口を開いた。俺にとっては予想もしていなかった、打ち明け話だ。


「シュータさん、わたし決めたんです」

 俺は日傘を持っていたから、美月の表情がよく見えていなかった。ケーキの箱を抱える美月をもう一度よく窺った。美月は晴れやかな表情で、微笑を浮かべていた。


「一度、未来に帰ります。すぐにでも」


「え……?」


 咄嗟のことで、頭が追い付かなかった。


「決心したのです。シュータさんには一対一できちんと話したかった。みよりんさんには既に伝えてあります」

「帰るって、どうして? 理由も教えて」


 美月は頷いて、こちらを見た。しっかり目を合わせて話す。


「母を取り戻すためです。それ以外ありません」


「方法が見つかったってことか」


「私なりの最善策を見出しました」

 美月は毅然と答えた。少しだけ、頼もしいような感じがした。


「でも、それ大丈夫なのか? また会えるのか? それに……」

「詳しい話はおうちに帰ってから。ここだと暑いですし」


 ケーキも溶けちゃうしな。俺は不安な気持ちを抱えつつ、美月の歩調に合わせて家路についた。あまりの事態に心にぽっかり穴が開いたような気分だった。




 美月は皆をエアコンの効いたリビングに集めた。最後にミヨが俺の隣(近い、暑苦しい!)に座るのを見届けると、美月は未来に帰るという意思を一同に伝えた。そりゃ驚かれる。


「いきなりっすね」

 ノエルが心配げに感想を述べた。相談も無かったからな。


「ミヨは知ってたの?」

「ええ、その方法を一緒に考えたのは私だから。つい先月のことね」


 っていうと七月に思い付いたわけか。一応、俺にもわかる話なら、教えてくれないか。どうやって美月はお母さんを発見するんだ? 美月がすぐに答える。


「相園さんたちのために、一度話を整理させていただくと、母はこちらの時間軸で消滅しています。超能力を持つアリスさんによって、肉体と体内コンピューター、両者を完全に消されてしましました。バックアップが充分でない以上、母を復活させることはできません」


 うん、俺が聞いてきたのはそういう話だった。


「母のDNA情報は既にあります。そのため母を復元するには、体内コンピューターにあるパーソナルな情報――記憶や思考パターンなど、後天的に獲得したものの情報が必要です」


 脳みそも体内コンピューターも無ければ、それは復元できないってことだ。


「ですが、そのパーソナルデータは再構築できるかもしれない。アリスさんが、シュータさんを乗っ取った先月の事件で、思い付いたのです」


 先月の……? アリスは確か、元々体内コンピューターを強奪し、所有していて、そのパーソナルデータを髪留めに残しておいた。その髪留めをつたって、俺の体内コンピューターに寄生し、乗っ取ったんだよな。


「アリスさんは、未来人ではない。すると体内コンピューターに残っていたのは、断片的な一年に満たない期間のパーソナルデータだけだったはずです。ですが、ほとんど完璧に、シュータさんの体内コンピューター上に人格を再現できていた」


 なるほど。百パーセントのパーソナルデータが残っていなくても、人格は復元可能。そう考えたわけだ。ミヨが言葉を継ぐ。


「美月のお母さんは、未来人よ。未来人はみんな体内コンピューターを持っていると聞いたわ。もし彼女と会話した人の記憶、あるいは彼女の行動を記憶している媒体の情報、そういったものをかき集めれば、完全とは言わないまでも、ほぼ人格と記憶を再現できるんじゃないかって考えたの」


 深雪は顎に手を当てて難しい顔をしている。


「実際、上手くいきそうなの? ゼロから外聞情報だけでその人を再現するなんて」


「見かけや動きはほぼ完璧に再現できるでしょう。記憶や思考は、どれくらい情報を集めら有れるかにかかっています。ですが七割以上再現できれば依然と遜色なく、日常生活を送れるのではないかと思っております」


 美月はそう言った。ミヨが俺の肩をつつく。


「再現度の異なるAI美月でシミュレーションしてみたんだけどね、七割超えたら違和感もほとんどない。記憶、知識、単語に多少抜けがあるくらい」


 じゃあ可能性は充分あるってことなんだな。ところで、AI美月というものがあるなら、俺の家に一台くれないか。

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