二十九.八島の鼎(7)
「はい、これ」
俺は指輪を美月の指にはめた。美月は――首を傾げた。
「これ……お菓子の指輪、ですか?」
「そう、イチゴキャンディー。スーパーの駄菓子コーナーで買った」
美月は意味がわからないようでハテナをたくさん浮かべていた。
「ありがとう、ございます?」
「ちょっとしたジョークのつもりなんだ。結婚指輪の真似事でさ」
「け、結婚ですか⁉ 結構です!」
美月が「畏れ多いです」と大慌てする。いやいや、プロポーズじゃなくて。
「ずっと一緒にいましょうって意味の、約束の証で」
「あ、そうですよね。びっくりしました」
美月が心臓を押さえる。そんなに驚かなくてもいいのに。
「それは形だけでさ、実際のプレゼントは別で用意してもいいと思ったんだ。ゲーセンでぬいぐるみ獲ってもいいし。ユリにデートの邪魔された日あったろ? あの日みたいに二人で服を見て回るのも、くたくたになるけどいいかなって思うんだ」
結局、俺の独断で美月に物を選んで渡す勇気がなかったんだろ、と言われればその通りなのだが、でもこの方がいい。二人で選んで決めよう。
「私も、シュータさんとまたお出掛けしたいです」
「うん、あとはその、これなんだけど」
俺はバッグから封筒を取り出した。深夜テンションで書いた手紙だ。
「お手紙、ですか」
「きちんと文章として美月に書いたこと無かっただろ? だから怠けず文字に起こして伝えようと思ってさ。ちょっと長くなりすぎたけど」
美月は両手で眺めると、胸に抱いてぎゅっとした。そして慈しむように眺める。
「嬉しいです。嬉しいなって思います。シュータさんの想いが伝わります」
そりゃ、良かった。美月は裏返しする。
「少し、読んでもいいですか?」
「もちろん。いつでも、どこでも……」
美月は封を開けて、便箋を取り出した。三枚もある。美月はまず文量に感心して、それから一行目に目をやった。美月の視線は真剣に行を追う。最初はくすっと笑う。それから軽く目を見張り、真面目に読む。目の前で読まれるの恥ずかしいな。
「あの、シュータさん」
美月が顔を上げていた。どうしただろうか。
「残りはおうちでゆっくり読みますね」
別に構わないよ。大した内容でもないけど。
「ここで読んだら、泣いてメイク崩れちゃうかもしれないですから」
泣くようなことは書いてないと思うよ。気楽に読んでよ。美月は丁重に折り畳んで封筒の中に戻した。大事そうにポケットの中にしまう。
「シュータさん、たくさん書いてくれましたね」
「そう? 俺は口数だけは多いし」
「そう、ですかね?」
美月は頷かない。いや口数少ないように見えて、実はモノローグでペラペラ喋ってるのよ。
「これで、宝物が増えました。これもです」
美月はお菓子の指輪を見せる。俺も嬉しいよ。美月は笑顔を生み出す天才だ。ケーキ屋の一角で、静かだけど心温まるやり取りをした俺たちはのんびりとケーキを待った。
しばらくしてケーキが箱に入って再登場した。ドライアイスで内箱をガッチリ固めてあるらしい。ずいぶん神経質に扱ってくれたものだ。俺と美月は礼を言う。
「いいんです。アララギさんは何かとウチをご贔屓にしてくださるので」
「ミヨの家が? そうなんすね」
行きつけと言っていた気がするからそうなのだろうね。
「娘さんもこんな小さい時から来てくれたんですよ」
店員さんがジェスチャーで示す。へえ、体長三十センチくらいってことはまだあいつが母親の腹の中で幼生だった頃か。
「昔から美人でね。それにホント元気なお子さんで」
ですよねー。美月も完全同意。
「一時、来なくなっちゃって心配してたんだけど、最近はまた元気復活って感じで、笑顔が素敵なお姉さんになって」
へえ、そうなんすね。カレシでもできたんじゃないですか、知らんけど。美月は話を聞きながら俺のことをチラチラ見ている。なんでしょうか。
「で、では、ありがとうございました。また来るってミヨに言わせておきます」
俺が箱を持って店を出ようとすると、美月が肩を掴んだ。
「待ってください!」
な、なんだよ。美月は顔面蒼白で俺を引き留めていた。
「お金……。まだ代金を払っていませんよ!」
やべ。そうだった。うん、そうだった! 完全に忘れていた。まさか常連だからツケにしておいてなんてケーキ屋さんで言うワケにいかないからな。
俺はミヨに渡されたお金を払って店を出た。流石にうっかりし過ぎだ。美月は「シュータさんらしいです」と溜息を吐いている。場所が場所ならシャレにならんな。
ぬいぐるみ好きな人の心理↓
美月とミヨはぬいぐるみ好き仲間です。
https://sanyokai-clinic.com/kokoro/7996/




