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みらいひめ  作者: 日野
五章/石上篇  なごりをひとの月にとどめて
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二十九.八島の鼎(3)

 遠くで車の行き交う音が聞える夜中の自分の机。俺は勉強の合間を縫って、美月への手紙をしたためていた。バレンタインデーに貰った手紙へのお返事をきちんと書いていなかったから、誕生日の機会に贈ろうと思ったのだ。


 ノエルと別れて帰り道、自習用のノートを買うついでに封筒も買った。これで物理的な準備は万端だが、内容の方が追い付いていない。伝えたいことはたくさんある。そりゃあ、勿論。論ずる勿れ。


 でも改めて文字に起こすべきようなことは思いつかないな。


 まさか後世に「相田周太郎 書簡集」なんかが発表されて「誕生日だそうですね。おめでとうございます。美月ちゃんを僕は愛しているんだから、イエスと言ってください。エゴイズムを離れた愛があろうか。僕の自分勝手な気持ちだと承知していますが、美月ちゃんのこと愛しています。お返事ください」みたいな赤面文章が、岩波文庫とかで紹介されたらどうしようと思ってしまう。そうじゃなくても、恋文になってしまうような気がしてならない……。


 うむ、これ夜中に書かない方がいいのか。やばい文章が出来上がってしまう気がする。いや、でも夏休みに入ってから忙しい、疲れた、と先延ばしにしてきたんだろ、遅筆で怠惰な俺。もう書いてしまう。ボールペンを握り締める。えい!


「最愛なる御方、竹本美月さまへ


 手紙の書き方は知らないから、伝えたいことだけ書く。不愛想な文章だけど許してくれ。


 まず誕生日おめでとう。美月という存在に生を与えてくれた両親と、母なる大地と、雄大なる世界と、深遠なる時空に感謝している。美月と俺を出逢わせてくれた全てにありがとう。そして美月にもありがとう。美月を好きなことは今さら書く必要も無いと思う。本当に好きだ。超好きだ。めっちゃ好きだ。中身も外見も仕草も俺に対する態度も好き。だけど、こんなことつらつら書いても仕方ねえと思う。


 だから、まだ打ち明けていないことを書こう。俺が美月と接するうちに何を思い、感じたか。委細まで書き込めば、何百万字にもなるけど、時間を区切って書いてみる。


・出逢ったとき

 見た目に圧倒された。可愛い。話すのも緊張した。だけど実は初めて会った気がしなかったんだ。俺は美月と以前どこかですれ違っていたのかな。そんな気がした。


・福岡の事故

 まず未来人ってことを知ってたまげた。同時にこの世に非日常的なワクワクが潜んでいることを知って内心喜んだ。自分が超能力者だと知って嬉しい。何より美月と少しだけ距離が縮まった気がした。美月は世間知らずで、籠の中のお姫様で俺が守らなきゃ。


・ミヨ登場/坂元、石島の超能力

 美月がミヨと親友になってくれたことは、今でも嬉しい。二人とも孤独で寂しかっただろうと思う。だから良かった。俺にはすっかり姉妹に見えるよ。だが、超能力者の事件に遭うたび、正直未来人に呆れた。それでも美月を守りたいと思うようになってから、義務よりは冒険心で立ち向かっていた気がする。ちなみに石島は美月のこと好きだから気を付けろ。あんなイケメンでも超能力者だからな。……俺だって本当はあいつに嫉妬してた。


・アリス

 アリスには散々な目に遭わされてばかりだったけど、あのときに美月を信じようと思った。ただの友達じゃなく、本気で協力し合える仲間だと信頼できたんだよな。ルリの馬鹿とも仲良くしたし。一緒に見た遊園地や海はどうだったかな? あの数日間は大事な思い出だ。


・入れ替わり

 傍迷惑な事件だったけど、美月と同じ家で生活できたので個人的には大もうけ。美月はぬいぐるみと朝の温かいミルクが好きなんだね。あとお味噌汁がうまい。修学旅行はもう一度やり直したいくらいだ。羊と触れ合う美月をまた見たい。


・文化祭

 ハッキリ言って、喧嘩したときは本気でムカついた。わからず屋のお姫様め。大人げなかったかなと今では反省してる。意地を張らず、佐奈子夫妻のように仲睦まじく文化祭を過ごせたら良かったね。これは推測だけど、美月はこの頃から俺のことを男子として意識してたんじゃないかな。やきもちの話もされたし……。雨降って地固まるじゃないけど、俺も美月のことを一層大事にしたいと思ったのがこのとき。今年は楽しもう。


・クリスマス

 列車旅はどうだったかな。緊張して夜も眠れなかった? 俺も同じだ。途中、熱を出した美月を見て庇護欲をかき立てられた。で、ついでに打ち明けると色っぽいと思ってしまった。俺が女の子として美月を完全に意識したのはこのときだ。事件後のクリスマスデートも、ドキドキし過ぎて死にそうだった。けど、美月となら家族みたいになれるって思ったんだ。美月の手、いつもあったかいね。


・バレンタイン

 美月の心のこもった手紙を受け取って嬉しかった。このときにはもういつか告白するしかないなって思った。たとえ磯上の言うように別れる運命だとしてもだ。チョコレートおいしかったよ。料理が上手になったね。文字を書くこともね。


・三年生

 深雪の件があって、考えて悩んだよ。俺は一年生のとき深雪が好きだったんだ。変えられない事実として。それから今の自分の気持ちを考えた。美月が好きなのは結局変わらないんだけど、その恋にどうやって向き合うか決めなくちゃいけなかった。最後は愛を伝えて、いつまでも一緒にいることを誓った。お母さんにも必ず会わせる。一人じゃ美月を救うには力不足だと思う。でも、俺はミヨやノエルたちの力も借りて、美月の未来を守りたい。そう決意したんだ。あの冬山で。ルーニーは綺麗な名前だと思う。


・アリス二度目

 アリスと戦うカッコいい姿を見られて興奮した。有言実行だったね。俺が守られてしまった。美少女戦士ビューティフル・ムーンも悪くない。できれば温泉美月も見たいものだ。


・現在

 十八歳になった美月も可愛い。十九歳になった美月も、二十歳の美月も、四十の美月も、八十の美月も、永遠にきっと好きなんだろうと思う。でも、本当に美月の喜怒哀楽すべてを見てまだ好きってことは、たぶんこのまま一生好きなんだと思う。いつまでも純真な美月でいてくれ。俺は美月を幸せにする。


 こうしてみると、未来人の美月に現代日本人が経験できることを一通りさせてあげられたんじゃないかと思う。季節のイベント、山に海に夏に冬、お買い物にスポーツ、飛行機も列車も乗せられた。この短い滞在が美月の一生の思い出になれば嬉しい。とりあえず目の前のことから頑張ろう。応援しているよ。俺の受験も応援してくれ(真剣に)。これでおわり。


 相田周太郎より 大いなる新愛の情を込めて」


 いいなあ、長いけど想いが籠ってる感じがするぜ。夜中に一人で便箋を見てニヤニヤするなんて気持ち悪いけど、上手く書けた。誤字も無いし、字も上手。


 これを美月がどう読むのか想像するだけでむずがゆい気持ちになる。俺は丁寧に折り畳んで封筒の中に入れた。封筒の表には「美月さんへ」とある。誕生日会のときに渡すのだから忘れないようにしないと。


 俺は封筒の口に、これまた買って来た星のシールを貼って封をする。完璧だ。俺がそろそろ寝ようと眠たい目を擦ると、スマホが鳴った。電話だ。相手はミヨだった。

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