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みらいひめ  作者: 日野
五章/石上篇  なごりをひとの月にとどめて
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二十八.尾を捧げて七度(23) 6

 美月は金紗の髪をなびかせて、俺とアリスの元に歩み寄って来る。表情はいつもと違って緊張感のある引き締まったものだった(いつも緊張感がなくて緩んだ顔をしているというわけではない)。


「あらー、マジで殺されに来ちゃったんだ。どうやったの?」

 アリスがドン引きで尋ねた。予想より早かったらしいな。少し動揺している。


「シュータさんの体内コンピューターに、私たちの情報をねじ込んでもらったのです」


「伊部くんかい。未来人のハッカーには太刀打ちできないや」

 溜息を吐くアリスを横目に、美月はしゃがんで俺のことを見つめた。


「お待たせいたしました。私がすぐに対処いたします」


「助かるよ。でもさ、さっき『私たち』って言わなかった?」

 美月は思い出したように「あ」と声を漏らす。それから背後を振り返った。


「止まれない⁉」


 何かが猛スピードで廊下を突っ切り、転がった。その物体はすぐさま戻って来て肩で息をした。見慣れた制服に見慣れた黒のボブカット。深雪まで!


「アイくんのピンチだってのに駆け付けないわけいかないでしょ、まったく。美月さんだけじゃ心配だし」


 深雪までボロボロなのはなぜだろう……? ここに来るまで戦闘でもあったのか。


「いいえ、ただ急いでいたので『身体強化』を使い、校舎を所々破壊しながら来たまでです。相園さんは扱いに慣れていないので校舎の壁に何度もぶつかっただけでして」


 校舎の壁に何度もぶつかってよくぞ無事だったな。つまり、さっきの壁破りも美月が? 身体強化を使えば、美月も強くなれるんだな。


「ええ。対人でなく、ただ移動するだけでしたら、自己暗示で何とか……」

 自己暗示って……?


「ルリさんのギフトです。『私は運動音痴じゃない。強い。素早く動ける』と催眠術をかけて来ました。身体強化とミックスすればそれなりに動けましたよ」


 動けましたって、ぶっつけ本番でやったのか。


「ま、まあ緊急事態ですので。ですがこれで、アリスさんの元までやって来られました。シュータさんは返していただきます!」


 アリスは非常につまらなそうだった。


「正義の味方気取り。美月ちゃん、流石に呆れるよ。さっきまでの話は聞いていたんでしょう?」


 美月はアリスを睨んだ。さっきまでの会話が筒抜けなのだとしたら、美月は自分の母親のことも聞いているはずだ。こいつは殺したと断言した。


「ええ、聞いていました。でも私はまず、シュータさんを拉致したことを憎んでいます」


 アリスは肩をすくめた。


「もしかして、何か気付いてた?」


「ええ、ここ数日のことですけど。ノエルくんや皆さんがいないことは、伊部くんの指摘でわかっていました。さらに共通点が超能力者で、シュータさんが触れた直後に消えていることも承知していました。最初はシュータさんが皆さんを何らかの能力で消しているのだと推測しました。ですが、この方がそんなことをするはずがない。何かに操られているのだとすぐわかりました。そこで阿部さんやみよりんさんが、シュータさんから触れられないよう監視していたのです。さらに、物を出したり消したりする能力が使われているようでしたから――アリスさんの名前は早々に上がっていましたよ。あなたじゃないかと思っていたのです」


 アリスは髪を掻き上げて「やっぱりね」と落胆した。


「もちろん、実際にみよりんさんが目の前で消えるまで、まさか体内コンピューターを使っていたとは思いませんでした。ですが、兆候はあったんです」


 倒れ込む俺はたぶん酷い顔をしていると思う。ちょっとどころじゃなく気分が悪い。


「シュータさんはユリさんと対峙したとき、体内コンピューターで『身体強化』の出力を最大限まで開放しました。ですが、数分前に少量を飲み込んだくらいで、あんな芸当が成功するはずないんです。私は奇跡が起きたのだと思っていました。実際は違う。シュータさんは以前から体内コンピュータ―を神経の深い所まで接続させていたから、可能だったのです。全身の過剰摂取したコンピューターが有機的に結合し、規格外の出力でユリさんを倒した」


 アリスは「その通りだね」と頷く。俺は元々体に含んでいたコンピューターも総動員でユリを倒したというわけか。ユリにとっても予想外のパワーが出ていたのだろう。


「ですから焦ったでしょう? ()()()()

 美月にそう言われて、アリスは首をひねった。


「私が体内コンピューターを停止させる弾丸を撃ったときだよ」

 隣から深雪がアリスに短く言葉を吐いた。アリスは苦笑いした。


「確かにそうだった。シュータくんがいきなり美月ちゃんを庇うんだもん。あれ、コンピューターの機能停止弾なのにさ。仕方ないから、当たった弾丸付近のコンピューターを全部排除して、機能停止は防いだよ」


 深雪が美月に銃を撃ったときだ。あれは体内コンピューターを持つ者にしか効かないという話だったが、実は俺も危なかったのだ。確か俺の場合、一瞬だけ意識が飛んですぐ回復した。寄生したアリスが主の俺を守ってくれていたわけだ。


「そっか。検査にも引っ掛からないようステルス型にしてあるのに、そうやってバレちゃうんだ。私の頑張りも未来人の前では水の泡だなー」


 当たり前だ。超能力が使えるとは言っても、それ以外はただの高校生たるお前の策略に未来人が負けるはずがない。降参しろよ。

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