表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
みらいひめ  作者: 日野
五章/石上篇  なごりをひとの月にとどめて
602/738

二十八.尾を捧げて七度(21) 6

「私の目的は、簡単に言っちゃえば未来人がいない世界を取り戻すことだね。すなわち超能力者も存在しない世界がいい」


 俺が見ていた夢は、まさにそんな世界だったな。


「普通の世界で、シュータくんは普通に受験をして、普通に恋愛するんだよ。もちろんその相手はワ・タ・シ」


 記憶を取り戻した以上、俺の愛する女性は美月唯一人だ。天上天下美月第一。


「俺は以前、深雪にも同じような説得をされたよ。普通の人生を送っていいんだって。でも俺はとっくに放棄した。美月が存在するという事実は歪めることも忘れることもできない。だから、どんなへんちきりんな事件が渦巻こうとも、俺は美月を愛する」


 この信念は揺るがない。


「でも、美月ちゃんたちとは二度と会えないとしたら? いやが上にもアリスと一緒の世界でしか過ごせないとわかったら、時間が経てば段々諦めちゃうよね。こんな薄暗くて気味の悪い世界に閉じ込められたら、ねえ?」


 アリスが底意地の悪い笑みを作った。


「美月と、二度と会えない?」

「シュータくんは脳内の世界に閉じ込められた。他ならぬ私の策略によってね。外の世界では、シュータくんは今頃意識を失って倒れていると思うよ」


 じゃあ話は早い。美月たちが異変に気付いて、すぐ助けに来る。


「美月たち? それは誰のことを言っているのかな?」

「美月と伊部。あとミヨと阿部と深雪。ノエルにだって協力を仰げる」


「うん、たぶん無理だよ」


 アリスは満面の笑みだ。親友のミヨに加え、お前を最終的に阻んだ未来人たちがこっちには付いているんだぞ。何が無理なんだ。


「だってさあ、実代もノエルくんも坂元ちゃんも石島くんもサナちゃんも相田くんも皆こっちの世界に連れて来ちゃったから」


 ……は? 何を言っているんだ、この馬鹿。


「気が付かなかった? シュータくんは催眠によって操られていて、私の命令で超能力者たちを拉致したんだ。君の体内コンピューターには、私の能力を模したプログラムを入れておいた。『触ったものを消して、脳内の世界に連れて来る能力』」


 なんだと?


「たとえば、旅行中サナちゃんに目隠しをされたでしょう? あのときシュータくんはサナちゃんの手を触っている。ハグもした。以降、そっちでサナちゃんを一度でも見かけたかい?」


 あれ、見てない……。夜のパレードのときも、学校が始まってから今日までも。


「同様に、坂元ちゃんから肩に手を乗せられて、抵抗したときも触れたね? 石島くんのこともお城の前で触った。ノエルくんは、朝に遅刻しそうになったとき触っている。実代の体は七夕の飾りつけのときやっと触れた。言いつけ通り、無意識にシュータくんは超能力者たちをこっちの世界に転送してくれた。最後は私のキスでシュータくん本体の精神を完全にこちらへ引きずり込んだ。ただ、透明人間の阿部さんには触れなかったね。でも、彼女単体では無力だから大丈夫」


 あいつら皆いなくなっていたのだ。……気付かなかった。なぜだろう。ノエルや他の皆が失踪すれば、真っ先に気が付きそうなのに。なぜ誰も気が付かなかった? 


「伊部くんがやるみたいに、世界中の認識を上書きするのさ。物質的には消えたことになっている。いないことは事実だし、現にシュータくんは彼らが途中から消えたことを知っている。でもそれを()()()()()()()()()()()()()でしょ。それが私の作戦なんだよ」


 何日もノエルたちの姿を見かけなかったのに疑問にすら思わなかった。異変に気が付いても、疑問を抱いたり原因を考えたりするのを防がれていたのだ。


「で、でもまだ美月がいる。美月が残っていれば、形成は逆転できる」


「超能力者が付いていない美月ちゃんに、一体何ができるっていうのさ。時間を『遡って』卒業旅行の頃からやり直せばいいって思ってる? バカだねえ。シュータくんの脳内世界は外の時間軸とは隔絶されている。時間を『遡った』ところで無意味だよ。

 仮に、こっちへ無謀にも飛び込んで来たとしよう。そのときは私が迎撃する。弱っちい美月ちゃんは恐らくというか、確実に死ぬ。私はむしろそれが本望だね。無力な美月ちゃんを暴力で殺すのよ。お母さんと同じ末路に導くの」


 お母さん……。美月の母のことか。なぜ? なぜアリスが美月の母のことを知っているんだよ。同じ末路って、美月の母は死んだのか? 死んだことをなぜお前が、……


「私が殺したからに決まっているじゃない」


 ――冗談はよせ。くだらないから。


「本当だよ。美月ちゃんのお母さんを殺したのは私。美月ちゃんに似た金色の髪を持つ能天気なあの大人を、ズタボロにして消滅させて、記憶のデータまでぐちゃぐちゃにかき消したのは、倉持有栖しかいないじゃない!」


 嘘だ、絶対にそんなわけない。アリスが美月の母と会うタイミングがあったとは到底思えない。美月の友達第一号の俺だって、見かける前に既に失踪していたのだ。アリスのハッタリに決まっている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ