二十八.尾を捧げて七度(14) 3
「ちょっと待ってよ、アイくん。勝手にこんなの川に流したら、不法投棄になるよ」
流石、法律家のタマゴ。深雪は「冷やかさないで」と怒る。
「笹ならともかく、折り紙や短冊は外さないとマズいって」
でもせっかく付けたのにな。外すのも、飾りを用意してくれた美月とミヨに悪い。ミヨは渋々川に流すことは諦めたようだった。
「なら燃やすのがいいわ。燃やして煙となって、天に願いが届くの」
たぶん煙が達するのは大気圏までが限界だという気がするが、そういう風習の所もあるよな。竹を集めてどんど焼きだ。だけど、また一つ問題が。危なくね?
「竹は油分を含みますし、内側に空洞があります。パチパチ弾けて燃えますので危険と言えば危険です」
美月が警告した。ご忠告、痛み入ります。
「ただ、細くてそこまで長くないので大丈夫だとは思いますが」
だがまずどこで燃やすのかという問題があるだろ。もちろん、こうて――
「校庭!」
「い……。校庭は絶対に叱られるからナシとして、野焼きできる庭を持ってる家は?」
ミヨの家は芝生ずくめだから無理。俺んちは貧乏マイホームで、庭は物干し竿が辛うじて伸ばせるくらい。深雪はマンションだし、阿部は俺よりいくらか広いけど住宅地のど真ん中だった。ノエルの家は行ったことない! こう考えると全員の家がダメじゃん。悲しきかな現代。焚火も庭でできないだなんて。
阿部「ノエルくんに頼んで、瞬間移動で浜まで連れて行ってもらいます?」
苦肉の策。あいつは体調不良で欠席しているんだろ。こんなことのために駆り出すには申し訳ないよ。うーんと全員が悩んでしまう。冨田の家ならワンチャン火事になっても許してくれそうだけどな。
深雪「埋める、とか?」
そんな風習はどこにも無いだろう。ちなみにこんなもんどこに埋めるんだ。
美月「食べましょう!」
タケノコの状態ならぜひそうしたかったね。
ミヨ「うちのおじいちゃんの家行く? 車で迎えに来てもらえばすぐなのよ」
――ええ? マジ?
「おじいさんに悪いんじゃないか? こんな夕方だし。とりあえず自宅の庭で保管しておけよ」
「軽トラですぐ来てくれると思うけどね。シュータがそう言うならそうしましょう」
ミヨは納得した。ただどうやって持って帰るか問題があるけどな。こんな大きな物を持って昇降口まで行かなきゃならねえのか。そっから家まで結構あるし……。
「そんなん簡単じゃない。こうやれば、いいのよっ」
ミヨは笹を担ぎ上げると、生物室の窓からえーいと放り投げた。おおーい!
「馬鹿か、お前は!」
俺はミヨの胴体を掴んだが遅かった。笹は階下に落ちて行って、地面と接触するとバインと跳ねて倒れた。
「ちゃんと誰もいないことは確認したわよ」
「それだけじゃねえよ。マジでぞんざいに扱うなって指示はなんだったんだよ」
言った本人が投げるなってんだ。笹は地面で寂しそうに横たわっているぞ。
「だってさ、三階まで持ち上げるのは仕方ないけど、下ろすには重力ってものがあるんだから利用しない手はないじゃない? シュータ、ココよココ。ココ使いなさいよ」
ミヨはこめかみを指差し嘲う。俺の手を振りほどき、スキップで生物室を出て行った。あのクソ貧乳! 俺は上げた拳を振り下ろす先が見つからず、途方に暮れた。疲れる。
「シュータさん、みよりんさんに触りましたか?」
美月が愕然としている。確かに阻止しようと胴体を抱えて引っ張ろうとした。触っちゃマズかったか? 嫉妬しているというわけでもなさそうだな。
「いえ、何も問題はありませんよ」
美月が首を振る。それならいいけど。
「相園さん、とりあえずみよりんさんを追い掛けませんか?」
「そうだね。本当なら良くないことになってるかもでしょ」
俺も阿部も事態が呑み込めず、立ち尽くした。阿部に対しても、美月は「触ってはいけない」という指示を出していたんだっけ。何なんだ?




