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みらいひめ  作者: 日野
五章/石上篇  なごりをひとの月にとどめて
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二十八.尾を捧げて七度(12) 3

 金ヶ崎は帰ってしまったので、阿部と一緒に生物室に戻った。どうやら皆はとっくに短冊を書き終えて飾ったみたいだった。雪・月・花は「遅い」と俺を叱った。使いパシリにしたくせに時間にまで注文をつけるとは、運動部の寮の先輩みたいなことを言う。こうして無事、しおれていた阿部を確保して来たんだぞ。


「阿部さん、お元気で。良かったです」

 美月が阿部を招き入れる。そいつはさっきまでほとんど死んでいたぞ。なぜって、


「ノエルくんが欠席なんです~。だから、お星さまにお願いします」


 阿部が泣く泣く短冊を持ち出した。美月が「何を書くのですか?」と覗き込む。そこに書けば、神龍みたいに何でも願いを聞いてくれるだろうよ。お天道様がというより、主にノエルが。


「そうだ、皆は何をお願いしたんだ? 飾ったってことは、見せてもらっていいんだよな」


 俺が笹に近付くと、ミヨと深雪が寄って来た。横に飛び出た笹に付いている黄色の短冊を手に取る。この可愛げのない楷書体は深雪だな。なになに……。


「アイくんと永久に離れませんように 深雪」


 ふむー。


「きっしょ! なんだよこれ」と心から叫んだ。


「ごめんアイくん。冗談のつもりでさ。本当は物理的にではなく、精神的に離れませんようにって書きたかったのよ」


 どっちにしても最悪だ。こんなこと神様にお願いするなよ。


「でもずっと仲良しがいいっていうのは本心だよ。それに、裏にはもう少し真面目なお願いも書いてあります」


 裏面には同じように丁寧に文字が書きつけられている。それは「行きたい大学に受かりますように。見合うだけの努力を積みます」だった。大学受験のことだ。こういうのでいいんだよ。最後は運任せだからな。こうしてお願いしておけば頼もしいだろう。


「で、ミヨはなんて書いたんだ? どうせロクなお願いはしてないだろ」


 真ん中の方にある赤の短冊を手に取る。下に「美月」という文字が見えた。こっちは美月の短冊だったか。女子中学生が書きそうな、どことなく丸い文字だ。一見あざとい文字だが、美月自身は本気で書いているらしい。


「みなさんと笑顔で卒業します 美月」


 これはお願いというより、宣言だな。神様だって絶対に叶えてくれるさ。卒業までに全てが解決したらいいな。それは俺の願いでもある。三月までもう八カ月しか無いけど、やることは済まさないといけない。そこに美月がとっとこやって来た。


「シュータさん、私のお願いどうですか?」と笑顔。機嫌が直って良かった。

「心配せずとも必ず俺が叶えてみせる。美月も世界も俺が救う」


 俺たちは向かうところ敵なしだ。きっと最後の難題だって華麗に解けるはず。神様なんかに頼らず、俺に頼ってくれればいいんだよ。


「本心ですか? ならいいですのけど」


 美月は俺の脇腹をつついた。本当だから安心してくれ。浮気は絶対しない! なんかもう満足したけど、一応どれがミヨのか訊くか。


「これ」


 ミヨがてっぺんに掲げられた水色の短冊を指差す。高くて見えにくいんだよ。もっと見やすい位置に飾るのが常識だろ。ミヨは腰に手を当てる。


「あんたバカ? だってシュータに見せるんじゃなくて、お空に見せるんだもん。低くちゃ駄目じゃん」


「……確かに」と俺は言った。一理ある。


 それで内容はというと……。何とか背を伸ばして見る。流れるような行書に近い文字で短くこう書かれていた。


「子作り みよ」


「てめ、頭おかしいんか⁉」絶叫。


 ミヨは「何が?」と首を傾げている。その頭には何が詰まっているんだよ。密度がポップコーンより小さいんじゃないか。俺はいきおい八つ裂きにして捨ててやろうかと思った。だけど相手がミヨだから、ここは一度冷静になる。


「恐らく七夕のお願いで『子作り』と書いたのは、後にも先にもお前しかいないよ。世継ぎが欲しい王室一家でさえこんな直接的な表現はできまい」


「よくわからないけど褒めてくれてるのね。ありがと」

 ミヨが照れてニコっとスマイル。違う、褒めてないんだよ。

どうでもいいでしょうが、noteやってます ↓

https://note.com/negi_mkshow6108

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