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みらいひめ  作者: 日野
五章/石上篇  なごりをひとの月にとどめて
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二十八.尾を捧げて七度(10) 4

 俺はアリスを体で隠すように覆った。絶対に人が来ているよな。小屋の方から声がしている。まずい、高校生が男女で入浴に来ていると知られたら。


「アリス。俺が状況を確認してくる。ここでじっとしておけるか?」

 アリスの方に目を移す。アリスは俺の胸元で縮こまって、目を瞑っていた。


「いきなり抱かれても、怖いよ。嫌ってわけじゃないけど、手順があるでしょ……」

「何を勘違いしているのか知らんが、別の客が来たかもしれないから確認に行くだけだ」


「え、何? お客さん来たの?」

 アリスは目を開けて驚いた。俺は裸でお前を急に抱き締めたりしないよ。


「姿が見えないように、なるべく奥でじっとしておけ」


 アリスは慌ててバスタオルを抱え、温泉の奥まで移動した。俺は湯から出て、タオルを巻いて脱衣所の方に戻る。ガラス戸を開けて、プレハブに入る。そこでは浴衣の男性客が三人ほど服を脱ぎ始める途中だった。見た目の年齢層が若干違う男性たち。少し酔っている? 親戚なのか社員旅行か何かだろうか。この三人より他はいないようだ。助かった。


 俺は軽く会釈して、男性客の横のロッカーから衣服を取り出す。靴があったから先客がいることはわかっていたようだ。大声で話す途中、気付いた一人がこっちに会釈を返した。


 三人がいるのは俺が着替えた側。ロッカーを挟んで反対にはアリスの着替えがある。俺は荷物をそっち側に移動させると、急いで湯に戻った。今しかチャンスは無い。温泉ではアリスが不安げに俺の帰りを待っていた。


「急いで支度して上がってくれ。早くしないとオッサンたち来るぞ」

「え、え? ちょっとむこう向いてよ! タオル巻くから!」


 そんなのいいだろ。早くしてくれよ。猶予は無いんだぞ。


「はい、準備できた! 戻ればいいんだね」


 付いて来い! 俺はアリスの手を取って再びガラス張りの扉の前に戻る。戸は開けておいたので、ここから慎重に戻る。こちらを振り向かれたらおしまいだ。


「足音立てずに自分のロッカーの前まで戻れ。いいな?」


 アリスはビクビクしながら身を屈め、ささっとロッカーの反対側に隠れた。よし、上手くいった。後は俺が続いてゆっくりと戻り、扉を閉める。アリスのことを何とか隠し通さないといけない。アリスは無事に……⁉ 


「なっ」


 何やって――。アリスの馬鹿。やべ、声が出そうになって思わず口を塞ぐ。入り口で男性客と目が合う。俺は咳の真似をして、苦笑いで頭を下げた。それからゆっくりアリスの所へ行く。


「なんでお前、タオル脱いだんだよ!」小声で注意する。


 俺がさっき見たとき、しゃがんだアリスのバスタオルは完全にはだけて、首、背中から腰にかけて丸見えだったのだ。驚いて声が漏れちゃっただろ。


「だって取れちゃったんだもん。お尻見てないよね」

「見てない」


 恐らくだが、たぶん割れ目までは見てない気がする可能性が高いと思うのだがどうだろう。


「着替えるからどこか行ってよ。そっちも着替えるんでしょ」

 着替えはこちらにある。だから簡単に着替えられる。でもタオルがねえ。


「あ、そう言えば」

 俺が腰に巻いているタオルは小さいし、乾いたタオルは他に……。


「こ、これしか無いんだね」


 アリスは今や巻かずに手で押さえるだけのバスタオルを見つめる。悪いけど自然乾燥するまで待つか、それで拭くしかない。濡れた浴衣で朝まで越せないからな。部屋に戻るまでと考えても、濡れたままじゃ風邪引きそうだ……。


「わかった。後で貸す。先に拭かせて」


 もちろん好きに決めていい。ただ、男性客がロッカーの向こうにいるから気を付けないと。俺まで目を瞑って警戒を解いていたら、アリスが見つかってしまう。


「…………!」


 やばっ。息を止める。三人が温泉に入ろうとしている。服を脱ぎ終わったのだ。温泉へ向かう扉からこちらを見ると、当然ロッカーの両側が見える。アリスに隠れてもらわないといけない。どうする?

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