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みらいひめ  作者: 日野
五章/石上篇  なごりをひとの月にとどめて
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二十八.尾を捧げて七度(9) 3

 生物室のテーブルを囲み、真面目に短冊と向き合う。七夕に真剣な願を掛けた経験が無いから、何を書こうかと悩んでしまう。皆は何をお願いするのかな。


「ってか、タコちゃんとノエルくん来ない。シュータ呼んで来て」


 ミヨは威厳ある表情で指を差す。おれえ?


「おれえ? みたいな顔しないで」

 なんで俺が呼びに行くんだよ。電話でも掛ければすぐ来るだろ。アイツのことだし。


「それが連絡つかないのよ。二人とも。だからシュータ行け」


 くそ、いい気になりやがって。地球は自分を中心に回っているみたいな女王的中華思想を早く改めてくれないかな。いつになったら丸くなるのやら。


「一生丸くなんてならないわ! スタアになるの!」

 ビールのCMみたいなこと言って。本当に星になってしまえ。俺はペンを投げ出して立ち上がった。すると金ヶ崎も同時に立ち上がる。どうしたんだ?


「書けたよ~」


 何をお願いしたんだ。大会で勝てますようにとか? それともノエルと仲良くなりたい(ピュア)みたいな感じかな。笹の真ん中くらいの高さに吊るした短冊を見る。


「大好きなみんながハッピーになれますよーに!」


 すごくいい子でした。


「具体的なお願いしても仕方ないし、お願いするとしたら自分の力が及ばない周りの皆のことかなって思ってさ。どう?」


 言うことありません。どうかそのまま素直に成長してください。


「なんで敬語使ってんの? それはそうとウチも拓海に会いたいから付いて行くよ」


 金ヶ崎に腕をぎゅっと掴まれた。デート風の腕組み。怖いので雪月花の三人の方は振り向けないが、このまま同伴で行って来るわ。


「アイくんがキャバクラ通いしたらきっと――」


 深雪が何か言っている。ミヨは怒ってんだろうね。美月様もね。俺は見て見ぬふりして特別棟から教室のある棟へと向かった。二学年は四階だった。懐かしの階段を上がって行くと、見慣れた並びの教室が見える。夕陽が射し込んで綺麗だ。


「シュータ先輩ってさ、ハーレム?」

「お、なんだいきなり」


「もっと美月一筋、みたいに主張した方が良くねって思って。浮気してるように見えちゃうじゃん。だから部長とか副会長に付きまとわれるんだって」


 それはそれでいいんだよ。余計なお世話だ。


「俺はミヨや深雪を人として好きなんだ。恋愛以外の目的で女子と仲良くしてはいけないのか? 友達に男も女も関係ないだろ」


 勘違いされているようだが、俺の周りに美女が多いだけで、特別女の子が多いわけではないぞ。そう、厄介な美女が多いだけで。


 阿部のクラスはわからないので、教室を一個ずつ覗く。阿部は演劇部なのだから、そっちの部活に行っている可能性もあるのではないかと思った。だが、演劇部は特別棟の最上階で活動しているので、三階の生物室に顔を覗かせることくらいはできるだろう。つまり、まだ教室にいるか自宅へ逃げおおせたのだ。逃げたのなら、同情して見逃しても良いのだが。


「あの、ふわふわ~としたロングヘアってそうじゃない?」


 金ヶ崎が指差す。阿部は教室の一角の机に伏せていた。へこんでいるのか……。コイツはそんなことばかりだ。どうして不幸が一丁目一番地に舞い込んでくるのだろうね。


「おーい、阿部。相田だ。どうした。飼っているインコでも死んだか」


 誰もいない教室に入って、声を掛ける。金ヶ崎は「この子、ワンチャン死んでる」と報告する。死んだらノエルを喪主にしてやる。


「嫌です! おんなじ棺桶に詰めてください」

 突如、ゾンビのようにぐわっと起き上がった。怖いから普通にしてくれない?


「どうして生物室に来ないんだ。ミヨが七夕飾りを楽しみにしていたんだぞ」

 そう言うと、再び阿部は風船のようにしぼんだ。


「聞いてください」


 女子に「ちょっと話聞いてよ」と言われて、気が楽になった試しが無い。


「ノエルくんが欠席したんですよ! 無遅刻・無欠席のあのノエルくんが! 私も早退したかったけど勇気出なかった……」


 ノエルがいないからって落ち込みすぎだろ。無遅刻・無欠席って言うが、たぶんだけどノエルは病欠しても遅刻だけは絶対にしないと思うんだ。よほど寝坊しない限り。


「シュータセンパイ。私、これからどうしたらいいのでしょうか」


 声のトーンからして、将来の重大な決断を迫られた悲劇のヒロインなのだが、俺は簡単に答えられるよ。生物室に行くか、家に直行して甘い物食って寝ろ。


「短冊……。そうだ、私は織姫。一年に一度、天の川を通じて彼と会える哀しきお姫様だった。一年に一回は少ない」


 阿部はよろよろと立ち上がる。俺が腕を掴んで支えようとすると、サッと身を引かれた。もしかして触られるのが嫌だったのか。ゴメン。


「違います。センパイに触られても正直何とも思いません」


 さいで。


「ですが、美月センパイからシュータセンパイには触るなというお達しが届いていますから。ふふ、ああ見えて独占欲をお持ちなんですね。可愛いです」


 阿部がニコニコした。知らなかったな。美月がそんなこと伝えているなんて。


「わかりました。生物室に戻りましょう。って、そこにいるのは」

 金ヶ崎のことにようやく気が付いたみたいだ。金髪の毛先を弄んでいた。


「拓海が来てないなら、今日帰りたかったんですけど!」

「だよね。わかる。わかるよ。ねえギャル島ちゃん連絡先交換しない?」

「は? ギャル島? だる」


 阿部がグイグイ金ヶ崎に近付く。この二人はノエル推し同盟かな。あとルリもか。


 ――俺の方が、ノエルより恋愛運ある気がする。

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