表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
みらいひめ  作者: 日野
序章/竹取・石作篇 らいと版
59/738

三.白山にあへば光の失する(15) らいと

「あれ、美月さん? それと、ふむ。珍しい組み合わせだね」

 俺と美月を見た石島はそう言った。何度やっても名前を忘れているな。喧嘩売ってんのかこいつ。買ってやるよ。俺は石島に手刀を入れる。もちろん止められた。


「おっと。いきなりどうしたんだい?」

 お前の能力を開眼させるためだよ。美月は後ろに退散。ノエルが近付いて来る。ちなみにミヨは足手まといだから(俺も大概だが)遠くに避難する。


「ねえ、シュータ! 何となく予見できたんだけど、頭突きに注意して!」

 ミヨはそう言い残して走って逃げた。頭突き? 覚えておこう。


「シュータ先輩、引いてください」

 ノエルに促されて俺は後ろに退く。美月と共に十メートル距離を取った。ノエルが石島の隙を作ったら俺も助けに行って、美月が目からビームだ。ビームだっけ?


「伊部くん! 今です!」

 美月の合図で一瞬にして静寂が訪れた。人々が消えたのだ。今はゲーセンや店内放送だけが音源になった。怖いだろ? 未来人って。


「美月、いつでも走れるように準備だ」


 俺が囁くと、美月はコクリと首を振った。まずはノエルに格闘を任せる。やはり石島が覚醒。ノエルに重たい一撃を加える。ノエルは上手く受け流して瞬間移動し、背後から、足元から、頭上から打撃。しかし石島も強い。毎度カウンターを食らわせている。互角だ。


 いや、ノエルは少しずつ押されてるのか。石島のスタミナも伊達じゃなかった。いや、どうする。俺が行くか? いや邪魔かな。


 そのとき、一枚の紙飛行機が俺たちを越えて、戦場に割って入って来た。振り向くとミヨがいて、飛行機の行く末を見届けると走って遠くに行った。まだいたのか。攪乱作戦? もう一度石島の様子を窺う。飛行機が来ると、チラリとそちらに目を向けた。


「一瞬のスキが、命取り」


 ノエルが珍しく闘争本能むき出しな声を上げる。そして石島の首元に蹴りを入れた。


「やりました!」

 美月が歓喜する。しかし、石島はすぐに振り向き、大振りをして態勢が悪いノエルの腹を殴った。ノエルがゲーセンの方に吹っ飛ぶ。お前が戦闘不能になったら――。


 石島がこちらを見る。迷うことなく来た。俺は美月を庇うつもりだったが、一蹴りで真後ろに飛ばされた。暴走トラック並みだな。通路中央のガラス柵に激突。一瞬記憶が飛んだ。


 いや、一瞬じゃなかったのか?


 美月が数メートル横で右腕を押さえて座り込んでいる。


 ――手、上げやがったな。美月が死んだら未来との通信が途絶えて一巻の終わりなのに――ってのは後付けで、このときは怒りだけを感じた。石島は美月の方に向かう。ヤバい、何とかしろ、俺。くらくらする頭を抱えて歩いていく。


 石島は美月の襟を掴み上げて、華奢な体を近くの店舗の柱に打ち付けた。耳を覆いたくなるような悲鳴を美月が上げる。くそ、間に合えよ。あと三メートル。


 そのとき、俺は足元にビニール傘を見つけた。なんで晴れの日のショッピングモールの廊下に()()()()()()()()()()()()()()()()()? いや、後で考えろ。俺は傘を拾い、取っ手の部分を石島の足に引っ掛けた。


「美月を傷付けたこと、許さねえからな」

 床に倒れ込んだボロボロの男に言われても怖くないだろうがね。気が済まねえんだよ、やり返さないと。

 石島はこちらを見て俺を蹴り上げた。体が宙に浮く。そして背中から床に落下した。ゲームじゃないんだから軽々人をぶっ飛ばすなよ。


 そして仰向けの俺の脚を踏みつける。かかと落としで、ご丁寧にも一本ずつスネの部分を折った。涙が出るかと思った。でも美月の前だから泣かない。最低限の矜持だ。


 次は俺の心臓の上に足を置く。いくら時間が「遡って」生き返るといっても、死んだことが無いから怖い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ