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みらいひめ  作者: 日野
序章/竹取・石作篇 らいと版
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三.白山にあへば光の失する(14) らいと

「そうよね。頭動かさなくちゃ。石島くんは自分の力を最大限開放し続けている。というか前提として、なぜ私たちが普段から全力を出せないか知ってる?」


 あのな、ミヨ。俺だって馬鹿じゃない。そんなの疲れるからに決まってんだろ。


「そうよ。あれだけ体を動かすにはエネルギーを大量摂取する必要がある。つまり石島くんは長引けば不利。耐久戦に持ち込めばいいんじゃない?」

 ミヨの提案はもっともだ。だが、耐久戦になる前にやられているんだよな。


「ヒトが全力を出さないのにはブレーキが効かなくなるという理由もあるんすよね。全力疾走の途中では急に止まれない。力を込めて卵を握ると潰してしまう。思い切り体を動かし続けると筋肉や骨に負荷が掛かる。だから細かい動きが雑で、一撃ごとに反動のダメージを受けている。付け入る隙ならそこにもあるっす」


 ノエルはそう言うが、それはまともに戦えないと活用できないだろう。


「つまり、私たちに何ができるのでしょうか?」


 美月が下がり眉で言った。俺もそう思う。未来の最新鋭の武器とか無いのかよ。


『無いな。こっちの時代には争いが無いんだから武器なんか要らないんだよ。作ろうと思えばできるが、一から設計図を作るなんて面倒だ』

 伊部は偉そうにそう言う。お前も考えろよな。俺は手元にある氷水を飲んだ。


「ギブ。火事場の馬鹿力を使う人間と対等に戦えなんて無茶よ」とミヨはまた伏せた。

「そうっすね。スポーツで言えばずっとゾーンに入ってる感じだから」とノエル。

 何だって? 火事場の馬鹿力とゾーン?


「なあ、じゃあ俺たちも出してやろうぜ。火事場の馬鹿力」

 俺がそう言うと、通夜みたいな顔をしていた皆が振り返った。俺はコップを見ながら、


「要は追い込まれたり、集中状態に入ったら同じ力が出るんだろ? 石島の体はただの人間と同じなんだ。なら俺たちも背水の陣で挑めばできるんじゃないか? 火事場の馬鹿力を出すための窮鼠猫を噛む作戦だ」


「ことわざと慣用句が多くてくどいわよ」と半眼のミヨが文句を入れる。


「だからこそさ。俺たちはリセットできると思って本気で戦ってなかったんじゃないか? リセットが無いって知っていればもっと真剣に臨めただろうって」


 ミヨは上手くいくかしらという視線だ。美月が意見してきた。


「でも石島さんの治療を終えたら時間は『遡り』ます。リセットを封印はできません」

「じゃあ、リセットの権利は伊部に委ねるとかかできるだろ? 次は全滅までやる。美月も含めて全員倒れた時点で、伊部がリセットする」


 誰も何も言わなかった。何も妙案が浮かばないのだろう。色仕掛けとして美月に際どいギャルファッションをさせたくらいだからな。追い込まれているんだ。


『オッケー。じゃあ俺はリセット係だ。その代わりルナが死んだらそっちに干渉できなくなる。ルナの命はシュータに預けたぜ』


 言われなくても美月は守る。そうじゃなくて、伊部にも頑張ってもらいたいんだが。


『俺が? 何すればいい?』

「一般市民が邪魔だ。逃げ遅れたり参戦したりってのがあると戦いづらい。何とかできないのか?」


『まあ、どうせ事件解決の後は時間を『遡る』から、特例的に敷地内の人間を消すくらいならできるが。面倒くせーな……』

 できんのかい。未来人も恐ろしいな。


「よし、そうと決めたらやるの。どのみちクリアが必須なんだから!」

 ミヨが立ち上がって大声を出した。ちょっと恥ずかしいからやめて。


「これがラストチャンスって思えば、俺も腹が括れます」とノエルが指を鳴らす。

「では、四人で玉砕しましょう!」


 美月が拳を振り上げた。玉砕はしたくないが。えいえいおー。

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