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みらいひめ  作者: 日野
五章/石上篇  なごりをひとの月にとどめて
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二十七.燕の持ちたる子安貝(31) 3

「私の母は、人間の身体に関する研究をしているグループに所属していました。人間の身体能力そのものの拡張を目指す研究です。ユリさんやルリさんと同じ系統です」


 美月は自分のお母さんについてそう紹介した。俺は言葉を見失う。


「っていうより、人柄について訊いたつもりだったんだけど」


 美月は「あら」と照れる。美月のお母さんがどういう人なのか興味があったのだ。電車の音でかき消されないように、美月は顔を寄せて話してくれる。


「母は春の陽だまりのように優しくて穏やかな人です。お茶目なところがあるのも可愛らしいです。私のことも愛してくれました。ただ、穏やかでのんびりすぎる性格なのでたまにドジを踏むのですが、でもいい人です!」


 そうみたいだ。


「美月はお母さんに似たんだね」

「そうでしょうか? 母は頭が固い私と違って、ふんわりで穏やかな人ですし、私はドジっ子ではないですし……。母の方が人当たりが良くていい人ですよ」


 そうだろうか? たぶん美月とそっくりな雰囲気の人だという気がする。自覚は無いようだけど、いい人なのは疑いようが無い。


「お母さんは過去に来て、実験のようなことをしていたの?」

「ええ。ですがまあ、自由奔放な人なので……」


 やらかしたのかな。美月がこんな風に笑顔で回想してくれることを考えると、美月はやはり母親が大好きなのだとわかる。なんとか取り戻させてあげたいな。


「でもお母さんって、タイムマシン関連の研究者じゃないよね? あれ?」

「そうです。タイムマシンやバーチャルな世界を構成する技術の研究は、父や伊部くんの研究です。母や私はそれに協力していたというわけです」


 そういう感じか。美月は優秀な研究者どうしの夫婦のエリート血統だったのか。


「そんな、たまたまですっ。関係ないです」

「親からは少なからず影響を受けるものじゃないのか? ミヨの親は航空関係で、あいつ自身もそっちを志望しているだろ? アリスの親はSF作家で、アリスはSF研に入ったし。俺の両親は凡人で俺もつまらない凡人だ。な?」


「ああ、なるほど」と美月は言った。「腑に落ちました」と。


 俺は吊り革を持ち替える。タイムマシンの研究というものがどういうものか想像がつかないけれど、美月の父親も偉い人なのだろう。


「タイムマシンがあるから、美月たちの時代は便利なんだろうな。未来から情報を仕入れられるわけだろ? 俺が美月から話を聞くみたいに」


 美月はそれには首を横に振った。


「未来から人が来ることはあっても、未来に行けません。シュータさんも時間を『遡れ』ても未来に行けないことは知っているでしょう?」


 はい。そうだったね。余計なこと言った。


「未来というのは、無限通りの可能性があるのです。量子論です。突き詰めて考えれば、乱数によって世界は次の瞬間に姿を変えます。たとえ一秒後だって、世界がどうなるか我々は予測できないのですよ!」


 流石科学の血筋です。科学オタクだね。俺は美月を落ち着かせた。


「オタクでなくても、じょーしきです!」

「いやだけど、こいつは未来のことわかってるじゃん」


 夢見のミヨのことを指差した。ミヨの能力は未来予知だろ。もちろんあり得ないことをやってのけるから超能力なんだろうけどさ。


「確かにそうです……。どうしてシュータさんに言われるまで気が付かなかったのでしょう。みよりんさんの能力はどんな技術を使っても再現できません。なぜ……」


 そこまで驚きの大発見だったのかわからないけど、美月は顎に手を当てて真剣に悩み込んでしまった。まあまあ、超能力なんだから何でもアリだろ。


「みよりんさんはどのように未来を予測して的中させているのでしょう」

「そんなの天啓みたいなものなんだろ。目を瞑ると見えたりするって言ってたし」


 美月は釈然としない様子。


「逆なのでしょうか? 未来の可能性をいくつかの大まかな岐路に分別して、希望したルートにみよりんさんが自らの行動で引き寄せているとか。それならあり得るのでしょうか。いやそれはみよりんさんの行動がその未来に確実につながるということを前提にしている。どうして……」


 あらあら、完全に自分の世界に入ってしまった。それだけ未来予知は難しいものなんだな。逆に未来予知さえできれば、未来人を出し抜けるな。未来に行けるようになるし、未来を引き寄せられるわけだからさ。


 ミヨはそんなことちっとも考えていないような幸福な寝顔を晒している。気持ちよさそうに眠るなあ。幸せそうに食べるし、屈託なく笑うし、ミヨに生まれ変わったら幸福だろうと思う。


「む」

 ミヨが目を擦った。なんだ、起きたのか。ミヨは座り直す。


「シュータがいやらしい視線で見てた」


 俺がお前を性的な目で見たことはまだ人生で一度も無いのだが。


「それはそれで癪ね」

「みよりんさん、頭を解剖させてもらってもよろしいですか?」


「いきなり怖いのよ」

 結局ミヨは美月に席を譲って一件落着。はあ、家に帰ったらやらなくちゃいけないことが残ってる。長い一日だ。

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