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みらいひめ  作者: 日野
序章/竹取・石作篇 らいと版
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三.白山にあへば光の失する(13) らいと

「あれ、美月さんに実代さん。それに、ああ、こんにちは。どうしたの?」


 俺たち四人は揃ってゲームセンター前で石島を出迎えた。キラキラしたイケメンは、やはり俺の名前を思い出せなかったようだ。ノエルとは初対面かな。俺はこいつが再び暴れ出すきっかけを作るため、殴り掛かる役割を請け負っているのだが、これが覚醒しなかったらどうなるんだ? 傷害罪か? ボクサーだし、避けるよな。


「いいから、早く!」と小声でミヨ。

 俺は一応ちょっと振りかぶって顔めがけてグーパンチ。当たったら「痛て」くらいの。俺の拳が頬に向けて直進する。顔の三センチ前で止められた。石島に微笑まれながら。


「どうしたんだい? 実代さんあたりが仕掛けたジョークかい? それとも?」

 石島は、にこやかに俺の拳を掴んでいた。待て待て。覚醒しないぞ。普通に俺がケンカ売ってるみたいになってないか。


 と思ったら――徐々に瞳の光が失われていった。


「逃げろ、美月、ミヨ!」

 ミヨはいるだけ邪魔だと思う。美月は最後に大役があるけどミヨは何もできない。作戦は男子二人で石島を羽交い絞め。その間に美月が精神剤とやらを与えて無力化し、時間を「遡って」無かったことにする。


 女子はとりあえず避難誘導役に。まずは俺とノエルで勝たないと――いけないんだが、俺は右拳を放してもらえない。やべ。そう思ったときには殴られていた。左頬に激痛。俺は第二の攻撃を防ぐために屈もうとするも、石島の左ストレートがみぞおちに直撃。まるで電車にはねられたように後ろにフッ飛び、ゲーセンの筐体に背中を痛打した。


「痛ってえな、筋肉野郎!」

 粋がって叫んでみたが、駄目だ。目が霞み、全身が痺れて動けない。店内には悲鳴が上がって人々が逃げ惑う。店の外でも人々が避難を始めているようだ。


「シュータさん! そんな、しっかりしてください!」

 気付いたときには美月が近くにいて俺を揺すった。辛うじて右目を開けると、美月がいる。死ぬ直前に見る美月も綺麗だな。よく見たら口内を切ったのか、唇から血液が流れ落ちている。みぞおちをやられたから息がしづらい。歯が立たなかった。


 石島をもう一度見る。すると、ノエルと格闘していた。石島が重い一撃を繰り出すと、ノエルは両腕で凌ぐ。攻撃を受けると瞬間移動して石島の背後に回り、蹴りを入れる。石島はそれを片手で払ってまた反撃を……という感じで互角に渡り合っていた。ノエルも強いのかよ。


 これなら案外上手くいくんじゃ、そういう期待は長持ちしなかった。徐々にダメージが蓄積して防戦を強いられたノエルは、とうとう倒された。


「み、つき。失敗だ」

「シュータさん、無理して話さないでください。次こそは頑張りましょう」

 ま、ノエルには希望を持てたし、次は決めようぜ。――瞬き。






「もうムリ。疲れた」

 ミヨがフードコートのテーブルに突っ伏す。珍しくお前に同感だ。俺も動けん。


「何回目よ! 絶望的じゃない」


 三十三回目だ。俺たちは三十三回失敗した。どう工夫してみても石島には勝てなかった。騙し討ち、武器、色仕掛け、その他全部をもってしても負けた。俺は毎回死にかけた。そもそも俺とノエルが石島を押さえ込めなければ成功しないのだ。


「そうっすかね。相手の癖も読めてきたので、もう少し戦えば互角に持ち込めそうっすけど」

 ノエルはシャドーの真似をした。あのな、俺には武闘家の血が流れてないから何度やられても一日じゃ成長できないんだよ。精神となんちゃらの部屋にノエルと一緒に閉じ込めてくれるなら少しはマシになるかもしれないが。


「とにかく次善策を考えなくては。ただ闇雲に戦うのでは限界があるとわかりました……」


 美月は落ち込んでいた。俺がやられるたび、ひどく取り乱していたからな。未来人だから暴力的なものに触れる機会が少ないのだろう。


「なあ、放っておいたらダメなのか? 世界が滅んじまうとか?」

 俺が訊くと、スマホに映る伊部が答えた。お前は痛い思いしないからいいよな。


『たぶんいつかは力が暴走して石島が壊れる。それに科学的にあり得ないことが存続したら秩序が崩壊する。最悪は武力組織に石島がバーンだ』


「死んじゃダメよ! 石島くんは友達なの。もちろん私たちも全員生きるわ」とミヨ。


 いくら石島でも、メンツが欠けちゃ後味悪い。しかしだな、弱点は無いのか? 強力な力には何かしらデメリットがあるのが常識だろう? 付け入る隙はあって然るべきだ。

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