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みらいひめ  作者: 日野
五章/石上篇  なごりをひとの月にとどめて
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二十七.燕の持ちたる子安貝(17) 3

 俺が撃ち抜いた合計の得点は、二十四点だ。こう考えると冨田の三十点はなかなか凄いのではないか。俺は結局五点を狙って倒れないので諦めた。アリスと深雪は散々な結果で、あと三射を残して十点だ。


「うう~、シュータくんに負けそう」

「負けそうじゃなくて、三発で十四点取るには、五点を射抜かないと駄目だぞ」


 深雪が「貸して」と銃を構える。


「アイくんに負けるくらいなら死んだ方がマシだもんね」


 そこまで言われる筋合いは無い。深雪が撃った弾丸は明後日の方向に飛んでハズレ。五点を狙ったのだろうけど、そんな構えじゃ照準がズレちゃうだろ。あのときよく拳銃で俺と美月の心臓を射抜けたもんだ。


 まあこれで俺の勝利マジックが0に。俺は店のおばさんから二等の景品のヨーヨーを受け取った。


「悔しい。チャラ田くん教えて」

「お、俺ー? アイに教えてもらえよ」


 俺かい。仕方ないな。そのまま構えてろ。


「深雪、右手で引き金を押さえるだろ。そう。それで脇締めてきっちり銃身を固定しろ。左手は銃の下をこうやって支えて。足は肩幅に開いたままでいい。頭も寄せていいから片目で銃口の先を見て。直線状に目標が見えるか? 五点の的は大きいが重い。上部の中央に当てるんだ。引き金引けるか?」


「う、うむ」


 俺が手を添えた状態で深雪が引き金を引くと、弾はポンと五点の的の中心に命中した。高さ以外は悪くない。倒れなかったけど、コルクの弾丸では綺麗に直進しないので誤差の範囲だ。深雪は倒れないのが恥ずかしかったのか、赤い顔で俺を見上げた。ごめん。


「ありがとう」

 意外にも感謝されました。良かったです。じゃあ最後の一発もそのまま撃ってしまえ。


「待って待って! シュータくんが、」

 アリスが割って入って来る。慌ててどうしたんだ。


「シュータくん、深雪のシャンプー嗅いで興奮してた!」

「ええ⁉ 甲斐甲斐しく教えてくれると思ったら、そうだったの?」

 こらアリス、意味不明なこと言い出すな。深雪も違うからね。


「私にも撃ち方教えてよ!」

 アリスがドンと背中をぶつけた。俺が教えるの? 他の三人を見るとニコニコしている。


 なんでこうなるかなぁ。じゃあ最初から教えるぞ。こうして、そうやって、ああしてみろ。どう、撃てそう?


「シュータくんが近い。手が熱い」

「変なことを考えるなって。雑念を捨てて、禅の境地にたどり着け」


「え、えい!」

 アリスの弾丸は、五点の的を正確に撃ち倒した。クリーンヒットだ。最後に五点追加で十三点。三等賞じゃん。


「やったよ、深雪」

「もっちーすごい。煩悩ショットだね」


「う、言葉もない」


 おいしい棒を二本貰って、アリスたちもゲーム終了。旅館に戻る時刻になったのでゆっくり歩いて戻った。部屋に戻ったら会えなくなってしまうので、とりあえず教師陣が集まるロビーの端でフカフカのソファーや椅子に座って待つ。永遠に自由時間であれ。丸窓からは裏手の街並みが見える。ほとんど真っ暗だけど旅情をそそられるね。


 アリスは浴衣で買い物袋を携えながら脚を揃えて座っている。


「シュータくん、会えなくなったら寂しいって思ってくれたんだー。嬉しい」

 アリスが投げキッスしてくる。うるせえな。お前が何か話せって言ったんだろ。


「一個訊きたいんだけど、ミヨには会えないのか。あの馬鹿の姿が見えないけど」

「私は温泉で会ったよ。側転してた」


 アリスが髪をかき上げる。なぜアリスが温泉でミヨを見かけて、俺は全く見ないのだろう。


「ミヨに会ったら、俺が心配してたから無事でいろよと伝えて欲しい」


「オッケー。実代に言っておく」

 アリスが丸を作る。ところで深雪どこ行った?


「シュータくんさ、単刀直入に訊くけどさ」

「なんだよ」


「深雪のこと好きなの?」

「なんで深雪」


 組んでいた脚をほどいてアリスに向き合う。何考えているんだ。


「あ、きちんと前閉めてよ。見えそうだよ」

 帯が乱れた。すまない。ではなく、どういう意味で訊いてるの? 旅館のオレンジの照明の下でアリスは歯を見せて笑う。


「文化祭のときから意識してるんじゃないかしらーと思って。名探偵アリスの名推理!」

「迷推理だな、探偵サン。後夜祭のしくじりが原因だろ?」


「――ん?」


 アリスはきょとんとした。アリスは知らないんだっけ。俺がマイクで深雪に酷いことを言ってしまう事故が起きて、そのせいで一旦疎遠になったこと。


「シュータくんは一年生のときからずっと深雪と仲いいじゃん。学年公認付き合っちゃえカップルみたいに」


「……そう、かな」


 俺の記憶では、文化祭以降、面食い発言を知る関係者から、俺は散々いじられた。あんまり考えてなかったけど、美月がいないということは世界の設定が若干違っているのかもしれない。ここはどこだ? 本当に夢なのか。俺は夢を見ているだけなのか。


「――……アトヨニン……」


 今何か聞こえたよな? 腹の底、いや地獄の奥から這い上って来るような気味の悪い声が。反射的に顔を上げてアリスを見つめる。何か聞こえなかったか?


「何も……」


「アイくん、冷たいカピルス飲む?」

「うひゃあ!」

 首筋にペットボトルが当てられる。冷たくて驚く以上に、なんか心臓に悪かった。深雪はどうしてこうなったのだろうと戸惑いを隠せないでいる。飲み物買って来てくれたのか。


「そんな驚くなんて、もっちーとナニしてたんでしょう?」とつっけんどん。

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