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みらいひめ  作者: 日野
五章/石上篇  なごりをひとの月にとどめて
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二十七.燕の持ちたる子安貝(15) 3

 アリスと深雪と俺。三人で温泉街を散歩している。石段を上がるにつれ、雅な景色も増えてきた。お土産屋でお菓子を見たり、試食で温泉まんじゅうを食べたりしている。夢だから当たり前だけど、本当に夢心地でフワフワしている。浴衣で見知らぬ土地を歩くことなど滅多に無いからだ。俺がまんじゅうを買って二人に一個ずつ配っていると、声を掛けられた。


「おーい、アイじゃないか。両手に華とはまさにこのこと」

 冨田だった。冨田は俺たちを見つけて、やはりからかってきた。アリスは「花魁道中だよ」と肩を出して見せる。おい、町中で露出するなって。


「心配し過ぎだよ」

「アリスは綺麗なんだから気を付けろよ。あと」


「あと?」

「ばっちり肩ヒモ見えた」


 アリスは無言で白い肩をしまって襟を整える。自分で気付くだろ。深雪は溜息で「チャラ田くんどこにいたわけ?」と詰問。


「俺は岡ちゃんと歩いてたんだが、岡ちゃんは吹奏楽の友達と旅館に戻っちゃったもんでな。ゲームをしていたわけさ」


 へえ、道楽人のお前も愛想尽かされたか。ワロタ。俺は腰掛けていた店先の椅子から立ち上がり、帯を整える。もうそろそろ自由時間も終わりか。夜でも賑やかな通りだが、少しずつ冷たい空気が辺りに漂う。標高が高いので夜はずいぶん冷えるらしい。山の方角から風が吹いてきた。アリスたちは浴衣の上着を羽織っている。


 そのとき、冨田の頭が日本刀でぶった斬られた。というのは見かけ上の話で、クッション生地の刀で叩かれたのだ。背後にはおもちゃの刀を持った坂元がいる。背中の傷は武士の恥だぜ、冨田。


「拙者坂元ト申候。冨田ト先程迄遊戯ゲエムヲ御遊致事ト相成、今迄當於其処居リ候。好色ノ男子不可許之為、天誅御下申可シ。天命既被果故、無念之情者無之、今以自決致シ御座候」


 候文?


「何してんだ、坂元」

「相田くんが話し掛けてきた! びっくり」


 坂元が刀を構えて警戒する。こちらの俺は坂元と接点が薄かったようだ。ミヨや坂元とは関わり合いが無い世界線なのかもしれない。


「なぜ、裏切った。坂元……!」

 冨田と坂元は何をしているんだ。坂元が刀の先で冨田をつつく。


「射的対決だよ。私の負けさ。私が三等のキャラメル一箱だけだった一方、チャラ田は一等賞を狙い撃ち。景品のBB弾銃を彼女サンにあげて……。いや完膚なきまでにって感じだ」


 冨田は「岡ちゃんは銃を欲しがっていたからな」と言う。なぜ福岡が銃を欲しがっているのか、俺は恐怖でしかないのだが(片瀬に横流しされたら日本の治安は終わりだ)、冨田たちも楽しそうで良かった。


「なあ、アイちゃんたちもゲーセン行かない?」

「高校生が遅い時間に遊技場に行くなんて不良です」


 深雪は突っぱねた。相変わらず真面目だな。いいじゃん、入ろうぜ。アリスも大賛成で昔ながらのゲーセンに入る。店内では射的ブースの他に、レトロなゲーム台も置かれている。


 深雪は俺の裾をくいくい引く。


「音が大きい、柄が悪い、怖い」

「いや、町中のゲーセンに比べれば静かでむしろ落ち着いた雰囲気だが」


 家族やカップル連れが多くて穏やか~な雰囲気だけど、深雪は苦手なのだろう。これじゃ昼間にクレーンゲームやプリクラに誘われても断りそうだ。


「んじゃー、君たちは何して遊びたい?」

 冨田が「色々あるぜ」と紹介する。アリスは「ハイハーイ」と元気に手を挙げ、


「ファイスト、テリトス!」


「じゃあドラムの名人、ぷにぷに」と深雪。


 お前ら現代っ子だな。そんなのあるのかよ。


「シュータくんはどうする?」アリスが尋ねる。

「温泉ならピンポンとかビリヤードやりたいけど実際何があんの?」


 店を巡ってみると、昔のバックマンもイノベーターもある。レトロゲームの穴場じゃないか。そう思ったけど、対戦の方がいいだろうと思ってぷにぷに勝負する。ばよえーん。アリスと対戦した。なぜかみんなアリスを応援していたが、俺が期待を裏切って勝った。


「どうだアリス。これが自力七連鎖の威力だ」

「ばたんきゅー。結構ギリギリだった気がするけど。はぁ、シュータくんのぷよ、おっきくて硬くて力強い」


 何言ってんだ。アリスは「汗かいちゃったよ」と手をパタパタする。熱中していて気が付かなかったけど、鎖骨が見える。ぐ、旅行温泉補正のかかったアリスの破壊力はすごい。


「相田氏、なかなかやるな。次は私と一戦交えないか」


 坂元に誘われるが、パス。せっかくだから様々な種類のゲームを楽まないか。あっちにピンボールもあったぞ。1973年製だってさ。俺が歩いて行こうとすると、アリスが店の奥を指を差した。


「あの、私も射的やりたいのです」

「そう。なら向こう行くか。皆もいいだろ?」


 おばさんが一人で座っている射的のコーナーに行く。数メートル先に三段になった台が置かれており、マッチ箱からソフビ人形まで様々な的が立てられている。1~5点まで得点の数字が書かれていて、十発で30点いけば一等だな。星陽のビリーザキッドと呼ばれた腕は伊達じゃない。俺に任せとけ。


「星陽のイーストウッド? の早撃ち見せて」


 いやアリス、ビリーザキッドだ。あながちイーストウッドも間違いではないけどな。ってかアリスも深雪もやれよ。三人で対決しよう。アリスは苦笑した。


「じゃあ私と深雪で一回分やる。二対一で勝負だよ」


 アリスが銃を構え、深雪が弾を込める。美少女ガンマンと競演できるとは光栄だ。


「アイがモテる。人生不可解」

 冨田としては面白くないみたいだな。

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