三.白山にあへば光の失する(12) らいと
次の一瞬、俺はフードコートにいた。四人掛けの席に皆が元通りに座っている。
「私が時間を『遡り』ました」
美月が簡潔に述べる。俺たちは状況が飲み込めず、相変わらず沈黙を保っていた。
「ええと、イベくんの話を聞いてください」
美月は自分のスマホをテーブルの上に置く。そこに椅子に座りながらコーヒーを飲む伊部の姿が映った。未来からの通信ってスマホにキャストできんのかよ。
『おす、お久だな。皆テンション低いぜ』
伊部は笑ってるが、正直そういう気分じゃない。現代人三人は訳がわかってない様子だからな。さっきは何が起こったんだ?
「シュータと美月が石島くんにぶっ飛ばされた。とにかく石島くんが暴れていたわ」
ミヨはそう答えた。俺の見た情報と大して変わらないが。
「俺が蹴り飛ばされた限りじゃ石島はとんでもなく強かったぜ。石島ってイケメンは確かボクサーだか空手家だよな? だから強いのか?」
「空手家は俺っす。あの強さは常人の域ではないと思います。生身の人間を五メートル飛ばしていましたから。違うんでしょう?」
ノエルはスマホに問い掛ける。伊部は笑って頷いた。
『そうみたいだ。あれは、一種の超能力と言える』
おいおい。しっかりしてくれ、未来人。何人目だよ。俺も入れて五人目?
「私たちの不手際であることは認めます。イベくん、対抗策はありますか」
美月は切り替えが早いな。何となくノエルを見たが、こいつは目を細めて難しい表情をしていた。まあ、そう思うよな。俺もちょっと気になったぜ。
『石島ってやつの肉体は人間そのものだ。魔法とか未知のパワーで増強されているわけではない。あいつは筋力のセーブを自由に開放できるみたいなんだ』
セーブってなんだよ。
「シュータ、私たちは日常生活で筋力を百パーセント活用していないのよ。何パーセントを使っているかは諸説あるけどね」
そりゃ、歩いたり食べたりするのに全力は用いない。調節してるってのはわかる。そして全力を出そうと思ったとき、俺たちが十全に発揮できるかと言えば――ノーだろう。
「そうね。私たちはどんなに努力しても、正真正銘の全力は出せないわ。だけど石島くんはそれが可能になっていて、さらには理性を失って攻撃的になっている?」
ミヨがそう言うと、伊部は「そうだ」と言って説明を続けた。
『話が通じる状態ではない。暴れ回るだけだ。恐らくリミッターを壊す力が強力すぎて脳が負荷に耐えきれないんだろう。だから目的はシンプルだ。ヤツの精神を抑え込む』
俺もミヨも首を傾げる。つまり具体的にどうするんだよ。
『石島の脳が覚醒状態のとき、つまり暴れてるときにルナの体内コンピューターから精神剤を注入する。五秒でいい。ヤツを押さえ付けてルナと五秒目を合わせる』
五秒間目を合わせる? 美月の視界にはデジタル画面が見えているし、そういう方法で薬を石島に投与できるのか。
『そう。作戦が完了したら時間を「遡って」無事平和に戻るってことだ。簡単だろ?』
伊部はそう言うが、あの状態の石島を五秒食い止めるなんて現実的じゃないのでは?
「とりあえずやるの! やってみなくちゃ結果は出ないわ! 結果往来よ!」
ミヨの合図で俺たちはぞろぞろと席を立った。




