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みらいひめ  作者: 日野
五章/石上篇  なごりをひとの月にとどめて
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二十七.燕の持ちたる子安貝(8) 6

「相田に覇気が無い。お前、ちゃんと並ぶ気ある?」


 片瀬に詰められる。また上の空で夢を見ていた。俺は現実だとスプラッシュジェットコースターの待機列に並んでいたようだ。一時間弱待ち。あまりに長すぎるせいで、ぼんやりしていたらしい。


 深雪と片瀬、モブ男子二人はそれぞれ無駄話を咲かせていた。ちなみに俺たちの荷物はロッカーに置いてきた。今は10時15分。立つのも疲れた。


「かなり疲れたんだけど、まだ10時なの? 二倍の時間を過ごした気分だ」


「アイくんもしかして美月さんに会えないから拗ねてるんでしょ。私じゃ不満?」

 深雪に腕を掴まれる。「非常に不満」で回答しよ。


「問1でそう答えた理由を記述してください!」


 深雪に睨まれた。俺は疲れたから休みたいって言ってるの。お前とベタベタしたくはない。アトラクションからはキャーという悲鳴が聞こえる。こういうジェットコースターもいいけれど、俺はのんびり~で静か~な場所に行きたい。片瀬はマップを開く。


「せっかくなら叫びたくない? ならでは、の所に行きたいじゃん」


「片瀬って意外とミーハーというか、女子みたいなこと言うな」

 はい、殴られた。まあ殴られること前提でボケたわけだからいい。片瀬はきちんと女子だよ。今も猫耳カチューシャが似合ってる。


「相田も被りなよ。せっかく買ったんだから、ネズミーカチューシャ」

「俺はいいよ。美月が被るなら着けてもいいけど、恥ずかしくて」


「私も着けるから、アイくんもおそろで着けよーよ」

 女子二人に揉みくちゃされて、結局耳が付いたカチューシャを装着された。


「はあ、情けねえ。今頃美月何しているだろうな」

 班のメンバーと仲良くやっているだろうか。もし班員の男子が、俺の居ぬ間に美月とお近づきになろうとしていたらと思うとムカムカする。なんで班が別れちゃったかな。


「美月ちゃんはわざと相田と別の班にしたんでしょ」

 まあそうだろうな。美月は俺のことが嫌いでわざと別の班に――?


「おい片瀬、それどういう意味だよ」

 俺が迫って来たため、片瀬はたじろぐ。


「美月ちゃんさ、相田が告白する前は距離取ろうとしてたじゃん? 班決めのときもあみだくじ作るふりをして、実は操作して別の班にしたみたいだよ」


 マジでか。気が付かなかった。確かにあみだのとき怪しい動きをしていたけど。


「そんで、深雪と相田を同じ班にしてくっ付けようとしてたの。私は監視役で二人を取り持つ役割だったのね。私としちゃ、反対してたんだけど」


 ちょっと待て、この深雪・片瀬と同じ班になったのって全部仕組まれたことだったのか。


 そういやよく思い出せば、体育祭で、俺が「美月は学級委員長の資格なし」と仮定で言ったときに動揺していたな。学級長の権限を利用してあみだくじを書き換えたから、なのかな。ずっと後ろめたかったのだ。


「今じゃ美月ちゃん、『シュータさんが私を好きすぎて困ってます』って言いながら喜んでいるけどね」と片瀬は笑う。


 以前の美月は、俺と深雪が付き合うべきと考えていたようだ。回りくどいことをしたものだ。美月だって俺のこと好きだったくせにさ。


 ようやく順番が来て俺たちはコースターに乗り込む。当然のように深雪が隣に腰掛けてくる。俺は押しのけようとしたが、係員に怒られそうだったのでやめた。安全装置を着けられ、身動きが取れない状態になる。俺は高所恐怖症だし、絶叫系も苦手だ。そして深雪も苦手だ。


「あら、心にも無いこと言っちゃって。本当はハプニング期待してるでしょ」

 深雪が俺の肩をつついた。カチューシャは危ないから取りなさい。


「挑発的なこと言って、お前も怖いんだろ。大丈夫なのか?」


 深雪の震える指を押しのける。実はビビリのくせに調子乗ってやがる。俺は仕返しに肩をぐいぐい揺すった。やい、怖がり。


「くすぐった、触らないで、やめて! ちょ、あっ――んはぅ!」


 ――え。深雪は自分の口元を塞いだ。ちょ、お前こんな所で吐息交じりの変な声出すなよ。


「しょうがない、じゃん……」

「……ふうん」


「ちょっと相田。後ろで変な行為してないでしょうね。美月ちゃんに言いつけるよ」

「片瀬。いや何でもない、ぜ」


 発車音が鳴ってコースターがスタートする。気まずい複雑な気持ちを抱えていますが、とにかくアトラクションスタートということで、まあ目の前のことを楽しもう。


「いやああああああああ!」「うわああああああああ!」


 俺も深雪も相当のビビリでした。二人で手を合わせて恐怖をやり過ごす。ラストでコースターはプールに突っ込み水しぶきを浴びる。水がしたたる深雪と目が合う。深雪の制服は湿って少しだけ肌にピッタリな感じになっている。


「み、見ないで」

「おう……」


 この後アトラクションを降りた俺たちは、その前で写真を撮った。深雪との距離を感じなくもない写真になってしまった。スマホには美月からメッセージが来ていた。お化けのホラーハウス前でゾンビポーズをしているソロショットだ。福岡が撮ったのかな。ぜひブロマイドにしてちょうだい。

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