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みらいひめ  作者: 日野
五章/石上篇  なごりをひとの月にとどめて
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二十七.燕の持ちたる子安貝(6) 6

 さて誰に買おうかな。まず両親だろ、じいちゃんとばあちゃんに、クソ兄貴には買わないとして、美月のプレゼントは一緒に選びたいもんな。意外と贈る相手がいない、だと?


 俺はチョコ菓子など消費できる缶入りのお菓子を買い込み、要らないかもしれないけどミヨにカトラリーセットを、ノエルと阿部に文房具を、あとは……思い出した。


「アイくん、そんなの誰に選んでるのよ。まあ貰ってあげなくもないけど」


 隣にピッタリくっ付いてくる深雪がツッコんでくる。暖色の明かりが眩しい棚の前で俺が手に取っていたのは指輪だった。本物の宝石などは付いていないので、安い装飾品だが、女子は気に入るかな。


「指輪もいいけど、結婚指輪は別で買ってよね」


「だからお前にやるとは言ってない。これはあれだよ、ルリに渡そうと思ってな。勉強一人で頑張っているみたいだし」


 ルリとはバレンタイン以来、会話すらしていない。どうやら伊部の話では、未来で無事に学校生活を送っているようだ。聞いた話じゃ寮生活らしい。応援の気持ちも込めて何かプレゼントしたい。


「指輪かー。意味深ですな」

「違うって。悩んでる途中なの! 女子に渡すものって本当むずいよな」


 ルリは特に何に喜ぶのかわからない。下着とかなら喜びそうだけど、真面目に選ぶならどういうのがいいか。深雪はアクセサリーコーナーを一通り丹念に眺めた。


「アドバイスくれるか? 深雪さま」

「深雪さまに指輪をプレゼントしてくださるなら、考えてさしあげましょう」


 ええー。美月に知られたらどんな反応をされるか……。まあプレゼントするよ。どれがいいんだ。高くなければ買ってやるよ。


「いいんだ⁉ あんまり女の子に指輪なんか軽々しく渡さない方がいいよ……」


 深雪はそう言いつつも、迷わず指差した。ピンクのキラキラしたラインが嵌め込まれたシルバーの指輪だ。

 目立ち過ぎず、シンプルで綺麗だ。指の長い深雪に良く似合うだろう。


「て、照れる! らしくないから褒めないでぇ」

 深雪が真っ赤になって腰が抜けそうになっている。美月を褒めるときと同じテンションになってしまった。俺はぶっきらぼうで鈍感で愛想が無い相田周太郎だ。忘れんな。


「なに愛人にプレゼント贈ってんだバカヤロー」


 片瀬がショッピングバッグで俺の後頭部を殴った。仁侠みたいなカットインをするな。俺はプレゼントを選んでもらう見返りとして、これを渡すのだ。


「愛人のプレゼントを愛人に選んでもらうなんて、大した度胸よね」

 恐れおののくなよ。友達へのプレゼントを友達に選んでもらうだけだ。


「うーん、でも実際この中だったら難しいな。ルリさんって子供っぽいし」と深雪。


 わかる。アクセサリーは似合わないかな。それなら他でもOKだが。


「あんた幼年者にも堂々と手を出してるのね。日本の警察って無能なのかしら」

 片瀬、俺が渡す女の子の年齢をどう錯覚している……? ルリは同い年くらいだ。見た目が子供っぽいって話。そもそもルリ知ってるだろ。


「んー、このネックレスかな?」


 深雪は一つのネックレスを俺に手渡した。金色で細く、紫の小さなお飾りの宝石がピカリと光った。これでルリが喜ぶだろうか。俺はネックレスを手中で眺める。綺麗だけど。


「ただし、これはアイくんが直接首に付けてあげること。ルリさんは身体接触が大好きだからね。シチュで喜ばせる作戦です!」


 深雪が親指を立てた。なるほど、ルリなら喜びそうだ。俺が首に装着してあげている最中に、放送禁止用語を発しながら照れている様子が目に浮かぶ。深雪は「これも一緒にお会計してねー」とタグ付きの指輪も渡す。早速、財布が心もとないけど、これでお土産は完了かな。


 レジで支払いを済ませてショップの外に出ると、結構な賑わいとなっている。これからどんどん混んでいくぞ。早くアトラクションに乗らなくては。


「あ、深雪。これ指輪」

「嵌めてよ、薬指に」


 おい、俺がいくら鈍感でも薬指が結婚指輪なことくらい知ってるぞ。左の中指な。深雪は非常に不服そうに自分の中指にはめられた指輪を見つめる。それで納得してくれよ。


「チッ。流石にアイくんも騙されないか」

 フラれた恨みで中指を立てるな。

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