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みらいひめ  作者: 日野
五章/石上篇  なごりをひとの月にとどめて
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二十七.燕の持ちたる子安貝(3) 6

「シュータとお出掛けランランラン」


 ミヨがスキップで先行する。駅を出ると、夢の王国の片鱗が窺える。いつ振りかな。あまり好きこのんで来ないので(人混みが大嫌いなのだ)、子供のときに連れて来られて以来だ。でも友達と来たらテンションは俄然上がる。周囲の皆の心も沸き踊るようで、笑顔の人々が園の方向へ向かって行く。俺たちも固まって歩く。


「シュータさん、さっきはすみません。大丈夫ですか?」

「おう、もう平気だぞ。たぶん二個とも無事だ」


「ニコトモ、ですか?」

「何でもない。気にしないで。でも不安だから手を繋いで行こうか」


 病弱を理由にサラッと手を繋ごうアピール。周囲のカップルや家族も自然と手を繋いでいるため、非常にやりやすい。すぐ隣の冨田・福岡のバカップルもしているし。


「では、遠慮せず……」


 美月は俺の裾をつまんできた。遠慮している。美月はそっぽ向く。恥ずかしがっているのか、美月はこっちを向いてくれない。


「じゃあ私はアイくんの左手ゲット」

 深雪が反対の手を握った。お前は放せ。学校の連中に見られたら非常にまずい。ハーレムモテ男は即仲間外れ間違いなしだ。


「美月ちゃんと手繋ぎの時点で全男子を敵に回している気がするけど」


「でも、相園さん! シュータさん困ってます」と美月。

 深雪に苦笑いで手を離された。悪いな、俺の気持ちは一つで不可分なのでね。左手は空にしておきたいんだ。


 それを見て、冨田が溜息を吐いた。いや、すまねえ。お前との友情が壊れてでも、美月と仲良くしたいんだ。美月を独占してごめん。それとも俺と手を繋ぎたいか?


「俺はオメーと手なんか繋ぎたくないゾ。竹本ちゃんも幸せならそれでいい。俺はてめえのメロメロぶりに呆れていただけ。そーだ、俺がリア充の先輩として色々教えてやろーか」


 ハハハハハと笑う冨田を「うるさい」と片瀬&福岡がチョップする。うん、お前はその調子で頑張れ。


 さて、今日はどう過ごそうか。美月の手を取って進んでいく。ほら音楽が聞こえてきた。あっちでは星陽高校三年生が集合しているぜ。早く向かおう。


「シュータ、美月。イチャコラする暇あるなら走りなさいよ」

「うるせ」


 ミヨのハイテンションも今日くらい許してやるか。場所の雰囲気もあるし。なんか影が薄いけど坂元も充分に楽しめよ。お前は満員電車も人混みの園内も苦手そうだな。


「ああ、陽キャどもの巣窟でどう暴れ廻ろうかしら。どうすれば目立つのか」


 頼むから目立たない方向に舵を切ってくれ。普通に過ごせばいいんだよ。


「どうした相田氏? 恋人がデキてぼうっと夢心地かい?」


 夢って……。美月は恋人じゃないよ。美月も「皆さん好き勝手言います」と不満気味。説明が面倒だがまだ恋人ではないのだ。


「まあ恋人じゃなくてもいいんだけど、両想いなことに変わりないじゃん? 相田くんの食べたいうどんは月見うどんだったかー」

 何の話だ。坂元は眼鏡を額に掛ける。


「みよりんがトップバストが七十七センチのラッキーセブンまな板でも、嫌いにならないであげてね! 見捨てないで」

 坂元は目元をハンカチで拭うようにしてミヨの元に去って行った。


「シュータさん、私のこと好きでも、みよりんさんのことも大事ですよね?」


 美月はニコニコしている。ミヨのことか。俺はあの馬鹿の面倒を見られる最後の人類だ。俺が見捨てたら、世界が見捨てるだろう。だからミヨのことも守る。ミヨの笑顔を見ると俺も心が和むからな。――ミヨはなぜかリュックを背負ったまま側転していた。あのアホ。まじストレス!


 とりあえず、俺たち五組は五組だけで整列だ。クラス委員長の美月は出欠確認のため、クラスメイトたちを整列させている。俺は同じ班になった深雪・片瀬と一緒に列に並ぶ。


 美月の委員長としての奮闘ぶりは目頭にじんと響くものがある。俺が歌人なら「新撰美月和歌集」を編纂したのにな。その後は「後撰美月集」や「美月拾遺」も作る。五感で美月を称賛したい。千年後の人はこれを見て――どう思うのだろう。


「アイくん、なんか変な妄想してない?」

 妄想じゃない。リアルな恋心さ。


「きも」

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