二十七.燕の持ちたる子安貝(2) 6
「シュータさん、ネクタイ似合ってます」
本日、美月から贈られたネクタイを着用している。まあ今日は制服デートみたいなものだし、美月も俺の告白に返事はくれなかったけど満更でもなさそうだし、ちょっとウキウキ楽しんでしまおうかななんて思っている。むふふ。
「アイくんがデレてる。気持ちわるーい」
深雪にジロリと睨まれる。深雪とは距離が出来てしまうのではないかと思ったのだが、むしろ猛アタックを受けている。隠し事がなくなって吹っ切れたのかもしれない。結果往来ってことで。
「俺の幸せオーラが溢れていたのなら謝罪しよう」
「うーわ。美月さん、こんな男子見限った方がいいよ」
深雪は舌を出す。そこまで辟易されるほど馬鹿じゃないぞ。
「ふふ。いいんです。シュータさんってば可愛い」
……ま、いいや。そっちこそ溜息が出るくらい可愛いし。背後の片瀬が振り返る。
「相田と美月ちゃんってやっぱ付き合ってるの? 訊きにくかったけど、最近仲いいよね」
「なんでお前に言わないといけないんだ」と俺。
「美月ちゃんを独占しようなんて百年早いのよ、生意気。ころ――」
「殺すよ、とか言うな。付き合ってはねーよ。ただ俺が美月を好きなことは伝えた。改めて言おう、俺はこの麗しいお姫様を最上級に愛している。素直で優しくて強くてとてもいい子だ。一生かけて必ず守り抜く」
そう言い切ると、片瀬は唖然として顎が外れそうになった。福岡は真っ赤になって口元を覆う。坂元はニシシシと笑って、冨田は「ひゅ~」と力ない口笛を吹いた。もう半月くらい前のことだぜ。今さら驚くようなことじゃないって、なあ美月。
「くぅ恥ずかしいです。お姫様なんかじゃないのに」
照れ屋さんだな。美月には何度か伝えただろ? 俺の気持ちは変わらないよ。
「ホント、シュータってば遊び人よね」
ミヨはやれやれと肩をすくめる。お前に馬鹿にされると腹立つぜ。俺は美月一筋なのに。けど応援してくれてありがとうな。高校生までの間は応援してくれるんだろ。
「俺は美月を愛している。そんで将来は絶対、結婚する」
「結婚はダメに決まってるでしょ!」
ミヨにブチ殴られた。電車の揺れも相まって深雪の方に体が倒れる。深雪は「重い」とぼやく。なんで結婚がダメなんだよ! 応援してくれるんじゃなかったのか。ミヨは頬を膨らませてプリプリ怒る。乙女心はわからん。
「美月も、俺と素敵な家庭を築いてのんびり幸せに暮らしたいよな?」
「か、家庭ですか……」
美月は、ほわんほわんほわーんと何かを想像する。みるみるうちに赤くなった。
「何考えてるんですか! シュータさんのえっち!」
バシン、とバッグが振り上げられる。見事、どことは言わないけど、急所にクリティカルヒットした。俺は痛みで力が入らない感覚に悄然とする。ソコは無理……。
「シュータ、大丈夫? 青ざめてるわよ」
ミヨが背中をさする。ごめん、ありがとう。お前も俺と入れ替わっていた期間があるから知ってるかもしれないが、そこを痛打されると男は立っていられないのだ。
「シュータさん、すみませんっ。そこまでの暴力を振るったつもりは無かったのですが……」
美月が席を立って俺を座らせる。うん、ちょっと座るわ。
「アイくん座った方がいいよ。素敵な家庭が築けなくなっちゃうよ」
深雪がリュックを持ってくれる。俺は前屈みになった態勢で座った。前途多難だが、俺はイベントを百パーセント楽しめない運命なのかもしれないね。




