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みらいひめ  作者: 日野
四章/大伴篇 琴詩酒伴皆拋我、雪月花時最憶君
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二十五.鳴る雷の類(8)

 三人でご飯を食べ、代わり番こで風呂をいただく。俺たち三人はこの一年で家族みたいな仲になった。深雪は美月と出逢って後悔しないか問うたが、俺は後悔していない。むしろ感謝しているのだ。


 だから寝室で、風呂上がりでござんす的なちょんまげ美月山と二人きりになっても後悔していないと言い切れる。え、何このシチュエーション。美月に寝室に連れて来られたのですが。ですが、神様どうでしょうコレ。いいのでしょうか。


「みよりんさんは、お風呂中です」

「わかってるよ。それはわかるんだけど待ってくれ、ここで美月も寝るの?」


「みよりんさんは三人で寝たいとおっしゃっていました」


 三人ならオッケーってわけじゃないじゃん。すると美月が部屋を出て行った。仕方なくベッドに腰掛けて考える。

 たぶんミヨはこういう日でもないとお泊りに呼べないから俺を誘ったんだろうけど、美月はどう思っているのだろう。年頃の女の子だけど、自分を好きだと言う男子に寝顔を見られるのって嫌じゃないのかな。

 それともいいのか? 期待されているのか。ピュアな俺にはわからないぞ。ぐるぐる。


「こんこん。入りますよー」

 ドアがノックされる。「はーい」と言うと、美月が入って来た。


「何それ?」

 ビッグ・アリクイを携えて。美月はぽーんと俺にナマケモノのぬいぐるみを渡す。へ?


「シュータくん、シュータくん。こんばんわです。僕はアリクイだよ」


 美月アリクイが迫って来る。美月は隣に腰掛けて、アリクイを動かす。かわ――


「え、えっと美月じゃなくてアリクイさん。こんばんは、俺は、ナマケモノくんだよ。お話ししようね」

 ナマケモノを操ると、美月は喜んだ。アリクイも元気になる。


「ナマケモノくん。ナマケモノくんの調子はどう? 体は元気かな?」

「ありがとう、アリクイさん。俺はすっかり元通りだよ。お腹いっぱいで幸せだなぁ」


 美月は俺の目を覗いて、ニコッと笑った。楽しいんだね。


「ナマケモノくんに質問があるよ。ナマケモノくんが好きなものは何かな?」


 好きなもの? 何だろう。草食だよな。


「ぐうたら眠ることと、酢の物とポテトサラダと、み、お月様かなー?」

「へえ、そうなんだねぇ。お月様はいつから好きになったのかな?」


 アリクイが首を傾げる。美月のやつ……。俺は顔が真っ赤なのが自覚できるぞ。


「お月様は、最初に見たときから満月で綺麗だったんだ。お月様は欠けたり、半分になったり、消えたりするときもあった。他のお星さまが綺麗に見えることもあったよ。だけど、俺はのんびり屋さんだから、やっぱりお月様が一番美しいものなんだと伝えるまで時間が掛かっちゃったんだ。間抜けだよね」


 美月はアリクイの右手でナマケモノの肩を叩く。


「お間抜けなところも可愛いのが、ナマケモノくんのいいところだと思うよ」


 うん。お人形遊びもちょっとだけ楽しい気がする。


「アリクイくんはまだ帰らなくていいのかい?」

「僕はまだナマケモノくんとお話したいなあ」


「寂しいなら、いつでも俺にお話ししてね」

「優しいなあ。でも大丈夫だよ。僕はきちんと帰り道を考えているからね」


 俺はアリクイを動かす美月を見て、まだ子供だなと思う。


「アリクイくんにも好きなものはあるかい?」

「あるよー。僕は、ナマケモノくんが好き」


 ――え? 首を上げると、美月は恥じらってすぐにぬいぐるみで顔をガードした。


「ずっと、ずっと昔から、ナマケモノくんが大好きだよぉ~」

「そそそ、そうなんだねえ。俺もアリクイくんが大好きだなぁ」


 アリクイは美月の前でガッチガチに硬直している。やがて視線に耐えきれなくなったのか、腕を目いっぱい伸ばして、


「ちゅー。ちゅっちゅっちゅー」


 アリクイが俺のナマケモノにキスを連発した。美月は目を瞑っている。こいつはなんて可愛い生き物なんだ。もうまったく、本当に大好きだな。力が抜けたよ。


「ちゅっちゅっちゅー。俺もアリクイくんが一番大好きだよ」

「ナマケモノくん、僕は嬉しいな。ずっとずっと一緒だよ!」


 二匹がキスをし合う。それを見て、二人で目が合ってしまう。恥ずかしいような気がしていたけど、笑ってしまった。変なことしてるな、俺たち。美月は笑ってギューとアリクイとナマケモノをくっ付けた。ああ、楽しい。


「なーに、イチャついてんのよ」

 低い声が聞こえる。寝室のドアの隙間からミヨが登場した。カラスの行水め。見ていたのか。


「途中からね。くっそお。こうなれば生ミヨも、ナマケモノくんにブチュー」

 ミヨは俺からナマケモノをひったくるとそのままキスしやがった。こいつ頭悪いんか。


「みよりんさん、それ私のぬいぐるみです。やめてくださいってば」

「やだ。これシュータの匂いが付いたもん。私のもの」


「みよりんさんには、イモムシのぬいぐるみがあるではないですか」

「そ、それはシュータの前で言わないでよ!」


 かくて、枕投げ百年戦争が始まった。ひどい戦争だ。

実は、なろう作品コード「N2756JS」で、こっそり番外編を連載しています。


真面目に読んでもらわなくていいやと思って、作品概要とかではふざけているんですけど、実は本気ミステリなので、興味のある方はぜひ。


あと他の作品もお正月で時間があれば読んでみて欲しいです。『みらいひめ』の読者さんなら、短編の『夜光』を面白いと思っていただけるんじゃないかなーと思ってるのですが……。


わたしの場合、お正月は引き籠って『GOAT』の公募のための短編を書く予定です!

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