二十五.鳴る雷の類(6)
俺は肉も選び終えて、ソースのコーナーに行く。
「でも、一番の間違いの元は後夜祭じゃないでしょうか。一年生のとき」
「言えてる。あれはホントにしくじったな」
俺が面食い発言をした一年の後夜祭。あれが大きかった気がする。相園がソースをかごに入れた。俺は自分が見つけたソースと見比べる。こっちの方が量が多いぞ。
「そもそもマイクの切り忘れってあり得ないんですけど。言い方にも傷付いた。私が女の子として可愛いから助けたらしいけど、私は女の子だからとか容姿だとかそういう基準で選ばれるのが嫌いだって知ってるでしょ。今思い返しても腹が立つ!」
あー、ハイハイ。今さらキレても仕方ないだろ。麺も買って買い物終わらせるぞ。
「あとそのソース、サラサラ過ぎて上手く麺に絡まないから元に戻してきて。ふう、まったく、あんな言い方されたから、嫌いになった時期ができて距離が出来て……」
俺は言いつけ通りに商品を戻してくる。さて、買い物再開だ。
「あのハプニングさえ無ければ、私はアイくんと結ばれていたのかな。そうすればアイくんは美月さんとも会わなくて、みよりんとも出逢わない。たられば言っても意味ないけどね」
あんな失言をしなければ、相園は巻き込まれなかったって? なら相園をこちらの側に連れ込んだのは俺の責任だったのかもしれないね。
「だけどね、こうなったらとことん私に頼って!」
相園が腕に絡み付いてくる。いきなり元気だし、いきなり大胆だなっ。
「まだルリさんに貰った体内コンピューターがある。昨日みたいな解析とか治療の基本的なオペレーションはできます。ガリ勉の副会長に頼って」
いや、美月に怒られるし。
「もうただの超仲良しな女友達でしょ! 私は付き合うことも男子として好きになることも完全に諦めましたので」
いいからくっ付かないで。学校の付近だから誰かに見られる可能性もあるぞ。
「俺としては、事情を知っている人がいることは助かる。相談もするかもしれない」
相園は嬉しそうに頷いた。たぶん最初はこうやって有能なパートナーとしての相園に憧れていたんだっけ。真っ直ぐで真面目で仕事がデキる……。
「あと、もし美月さんにフラれて寂しかったらいつでも呼んで。六月の式場は押さえておくから」
結婚式場? 気が早いどころじゃない。俺がげんなりしているのを見て相園は笑顔だ。
「アイくんがストレスで弱っているのを見ると懐かしいな。俄然やる気が出てきた。さあ、ちゃっちゃと買い物しましょう」
おいおい、待ってくれって。お前とは最初っから生きるペースが合わねえ。暴走機関車なところは変わってねーよ。俺は相園の揺れるショートヘアを眺め、溜息を吐いた。
「ところで私のことを、よそで『相園』って呼んでたのは意味があるの?」
――ああ、それね。意味は、無いわけではないかな。
「噂される仲なのに、『深雪』、『深雪』って言いふらしたら、好きだったのが皆にバレるだろ。心中で『深雪』って呼ぶのは、今でも超恥ずかしい」
「うわ、想像より何倍もカワイイ言い訳でした……」




