二十五.鳴る雷の類(2)
「あ、あのぉ、シュータさん」
ドアの所にいつの間にか立っていた。やべ、ミヨと抱き付いてしまっている。早速約束を反故にした。まずいな。
「シュータさん……、シュータさーん!」
かはっ! 美月まで抱き付かないで! いくら女子でも×2は重いかも!
「目を覚まして良かった! シュータさんあれから私が目覚めても一向に意識が回復しなくて、一晩中眠れないくらい不安だったのですよ。おかげで朝なのにさっきまで寝てしまいました」
アホ毛ができている。寝癖かな。美月のおかげで戻れたんだよ。ありがとう。俺は美月の頭を撫でる。――ん? この美月は冬の山で語り合った内容を記憶しているのだろうか。あれは美月であって美月本人ではない。俺の告白はどうなったのだろう。
「あの、美月。覚えているか? 俺がお前に会いに行ったこと。約束も」
美月は俺を見つめ、頬を熱くした。
「……」
「美月?」
「……約束は、守ります」
照れ隠しに俺の首元をギュッと抱き締めた。ア、死ぬ。
「覚えていたんだ。良かった」
「シュータさん、あんなこと言うから。あのまま死んじゃうかと思いました」
確かに愛の告白は、死亡フラグだよな。まあ相田周太郎は不死鳥のごとく復活した。もう安心してくれ。
「そうよ! シュータは敗北に屈しないタフな馬鹿よ。つまり今回も結果往来なの」
ミヨがベッド上で俺と美月にまとめて体当たりする。おいおい、俺はまだ寝起き。
「ところでさ、俺が起きたのを確認したのって誰だ?」
俺が半覚醒のときに枕元にいた人物の正体を知りたいのだが、誰か教えてくれない? ミヨははて、ととぼけた顔をする。
「ノエルくんじゃないの? ノエルくんが呼んだから私はてっきり――」
ノエルの方を見ると、ノエルは頷いた。
「俺は確かにシュータ先輩が既に起きているのを見つけました。もごもご寝返りを打っていたので」
いや、ノエルが来る前だよ。誰か来ただろ。
「私とみよりんさんは、一階のリビングで眠っていましたよ。ノエルくんに呼ばれて初めて二階へ来たのです」
「そうね。私も美月もそう。タコちゃんはマニキュア塗ってたし」
阿部がここに来ないのはそれが理由かよ。本当に俺に興味ないんだな。
「深雪ちゃんも一緒にいたわよね」
「ええ、相園さんも同じ所にいました。三人で川の字になって寝転がっていましたし」
相園もここにいるのか? そう言えばミヨが心配で招いたと言っていた。今はどこに?
「ここにいるよ」
寝室のドア付近には壁に背を預けた相園が立っていた。お前も私服だな。昨日はミヨ宅にお泊まりパーティーか。俺も参加したかった。
「いや、アイくんと美月さんとノエルくんの介抱で忙しかったの。徹夜でね! 私はほら、自分の後始末を付けなくちゃいけなかったし、アイくんがこれで死んだら寝覚めが悪いし」
まだ引きずっているのか。相園は複雑そうに袖元をいじっている。
「深雪のこと許すよ。俺は大丈夫だから……」
相園は俺を見て、悲しそうに笑う。そうだ、報告を。
「俺、美月のこと好きだ。美月が窮地に陥ったら必ず助ける。後悔したくないんだ。もちろん自分の命も勘定に入れるよ。だから心配だとは思うけど、見守っていて欲しい。それじゃ駄目かな?」
俺は美月やミヨの顔を見ずに言う。こいつらの反応なんて見ていられない。相園の笑顔が戻ってくると、俺は嬉しいような気恥しいような気持ちになった。
「そっか。覚悟できたんだ。なら私から言うことはもう無いね」
ああ、これからは良き友達として卒業までの日々を――ぐはあ!
「じゃあ、私は今日から公認のアイくん推し第一号じゃん! 推し最高、尊い、一生捧げる!」
相園も俺の胸元に飛び込んでくる。美月やミヨを押しのけて。三人に増えたんだけど!
「ちょっと、深雪ちゃん何してんのよ! この破廉恥! 生徒会真面目キャラのむっつりスケベは定番設定だけど、天が許しても私が許さないわよ」
俺に頬をすり寄せてくる相園とミヨが格闘する。なんだよ、余計騒がしくなるのかよ。俺はてっきり美月と俺の仲をひっそり見守ってくれるものだと思ったのに。相園は上目遣いで見上げ、俺の胸元に体を滑り込ませてきた。すりすりしないで。
「アイくんさ、意外と押しの強い女に弱いでしょ」
ごくり。そんなことないぞ、逆だぞ。あと、あの、何か大きくて柔らかいものに肘が当たっております。
「押しの強い女の子って、みよりんみたいなグイグイ系ってことじゃなくて、」
耳に口を添えられる。
「えっちな意味で。フー」
「く、くすぐったいだろっ!」
俺が身をひねってよける。耳に息を吹きかけた犯人の相園は、笑いを堪えてお腹を押さえた。そんな面白いか。純朴な男子をからかって。ルリから要らない知識を与えられてやがる。
「み、皆さん! シュータさんは皆のおもちゃじゃないのですよ!」
美月が大慌てでガードを張る。ミヨは「じゃあ何なのよ」と言う。少なくともおもちゃではないだろ。
「シュータさんは私のことが好きで、その、私にとっても大切な人なんです!」




