二十四.竜を殺さむ(26)
「美月のお母さんが見つかって、ユリやお父さんたちとも和解して、そうしたら何度も美月と会えるようにしたい。未来とこっちの時間軸を行き来できるようにしてもらおう」
「……シュータさんはそれが良いのですか」
「俺は美月を愛している。だから、美月とこれっきりなんて考えられない。一生美月と寄り添って生きていくよ。約束は守る。必ず誓う」
俺は美月の左手を取った。真正面から向き合う。ぽかんとした美月は、泣いた後で潤んだ瞳をしている。いつ見ても、惚れるな。
「――過去でも未来でも今でも、一瞬一秒、俺はあなたを愛し続ける。気持ちを聞かせてくれないかな?」
照れ臭いけれど、らしくないけど、言いたいことは言ったよ。美月はまた泣きそうになって首を振る。そしてキリッと表情を引き締め、はっきりとした声で答える。
「今は答えを言えません。全てが終わった後、きちんとあなたに答えを伝えます。図々しいかもしれませんが、私を待っていてくださいますか」
俺は頷いた。そうだよな。母親を捜している最中に、男の告白を受けている場合じゃない。でも、それまで美月は待っていてくれるということだよな。
「じゃあ、それまで美月は」
「ええ、私はシュータさんと共に母を捜します。未来の追っ手に対しても協力して対処します。不思議な事件にも責任もって立ち向かいます。シュータさんが、そこまで誠実に接してくださるなら断れません。恥をかかせるわけにいきませんから。私を愛してくれる人を、もう二度と裏切りたくはないのです」
俺がいつ美月に裏切られたというんだ。俺はいつも救われているよ。美月が微笑んだ。
「その代わり、浮気は許しません。これが条件です」
「もちろん。俺がいつ浮気まがいのことをしたって言うんだ」
すると美月はカチーンときたのがわかった。
「シュータさんは女の子にモテモテではないですか! みよりんさんをハグしたり、相園さんに告白されたり、福岡さんと幼馴染みで仲良くしたり、片瀬さんから関節技を受けてイチャイチャしたり、坂元さんと親しげに軽口叩いたり、阿部さんと恋愛の話をしたり、ルリさんと知らないところで信頼関係を築いていたり、ユリさんのお胸にドキドキしたり、ノエルくんにまで内緒話したり、佐奈子さんに至っては普通に可愛いとか仰ってるし、美月はハラハラしっぱなしです!」
は、はーい。ごめんってば。詰め寄らないで。
「だ、だって、だって、シュータさん。最近の様子見てたら、私のこと、もう好きじゃないと思ってました~。うう」
安堵したのか美月が膝をつこうとする。冷たいし、危ないよ。俺がなんとか支えてとりあえず抱き締めておく。こうすれば温か――
「へっくしょん!」
俺はそっぽを向いてくしゃみをする。さ、寒いぞ本格的に。震えが止まらない。
「シュータさん、これ羽織ってください」
美月にマントを渡される。頭から被って美月も一緒に包み込む。
「吹雪が晴れない。ねえ美月、帰って来られる?」
「ど、どうやって帰るのでしょう」
ワッツ? 美月は帰り方を知らないの?
「コンピューターのブロックを解除して欲しいんだと。外では伊部がウイルスを除去している。安心して外に出ていい。美月は内側から鍵を開けられるんだろ。開けゴマみたいな信号は出せないのか」
「なるほどです」
美月は思い付いたように目の前の空間を操作する。ちなみに俺も安全に外に出してくれよ。ここから脱出できないと俺は消えるらしいからな。で、外に出られたら――
「危ない、シュータさん」
フラっと意識が遠のく。これ、単に寒くて立っていられないだけじゃん。足が棒になってしまう。ごめん美月、早く俺を解放して欲しい。
「シュータさん、眠っては駄目です。ほら起きて!」
美月がペチペチ頬を殴る。ふへえ、もう駄目だ死ぬ。
「シュータさん、気を確かに!」
俺は仰向けに倒れたのかな。霞んだ視界に必死な美月が映り込む。やることやったし、俺は使命感が途絶えるとヘタレなんだ。最後までカッコつけられないのが俺らしいや。
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真黒な教室。窓からは赤い光が射し込んでいる。椅子に座ったそいつが俺を見つめている。険しい目つきで怒っているらしい。
「あのさ、また死にかけたでしょ。ここまでくると死にたいのかなって思っちゃうぞ。根はドMなんじゃない?」
俺は苦笑いする。ドMなんじゃなくて、ガチのMITSUKIファンなんだ。
「呆れちゃう。真面目なところは同じか」
俺は使命があったはずだ。だから寄り道する暇は無いんだよ。
「深雪ちゃんはしくじった。あの子は『シュータくん推し』であって、基準がそっちにあるんだもん。私は違うよ。私は正常な世界を求めている。全部夢なんだよ」
はあ? そいつが白い歯を見せて笑うと、俺は眉を寄せた。
「リンゴはもいじゃうと早く腐るんだよ。長く鑑賞したいのなら枝に付けておかなきゃね」
そいつは紙パックの牛乳を置くとケタケタ笑った。足元には黒猫がいる。みゃーと鳴いた。んだ、この夢。馬鹿みたいだ。




