表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
みらいひめ  作者: 日野
四章/大伴篇 琴詩酒伴皆拋我、雪月花時最憶君
530/738

二十四.竜を殺さむ(20)

「ところで伊部。さっきから黙っているけど策が無いか」

 俺より少なくとも頭の切れそうな伊部に質問してみる。


『無くはない。あの竜も生物に過ぎないのだとすれば、打つ手はある』

 流石だ、ドクター。いやプロフェッサー?


『俺は世界でも有数の優秀な若き准教授。ここ最近のごたごたのせいで、まだプロフェッサーではない。じゃなくて、竜の話だろ。生物には弱点があるはずだ』


 生物の弱点ね。色々あると思うけど。


『一番簡単なのが呼吸を止めること。池でも作れれば、そこに首を突っ込ませて殺せる』

「二つの理由で無理だな。あの巨体を倒す術がない。それと水はこの寒さで凍ってしまう」


 伊部が向こうでニヤニヤしている気がする。


『まあそうだな。じゃあ神経ガスを使う。神経がバグれば自発呼吸すらできなくなる』

「ガスを製造できればの話だな」


 俺はそんな夢物語を聞きたいわけじゃない。現実問題として竜をどう倒すんだって訊いている。


『そうだな。現実にあんな馬鹿デカい図体の生物がいる。これは逆に弱点だぞ。なんで恐竜が滅んだのかわかるか? 大きい方が生存に不利だからだ』


 へえ、なるほど。生物基礎の授業では習わなかったぞ、ミヨ。


『あんた、いつも亀と一緒に生物室にいるってのに……。ねえ伊部くん。あいつ爬虫類よね』


『恐らくそうだな。固い鱗に鋭い爪。ワニやトカゲ、ヘビの特徴に近いか。羽が無いからサラマンダーって呼ばれるタイプのドラゴンだな』


 なるへそ。ところでそれなら弱点はどうなる?


『あいつ恒温かしら?』

 コウオン? 恩に厚いという意味か? あんまり義理堅いような顔をしてないが。


『違うわ。爬虫類が日光なんかで体温調節をすることは知っているわよね。変温動物は自分で体温調節できないの。逆に哺乳類みたいな恒温動物は、体内で発熱したり発汗したりしてある程度の温度変化に耐えられるわ』


 あ、知ってた。


『恐竜は主に爬虫類だけど変温と恒温、色々なのよ。陸上を生活圏にしていたり、水辺にいたり、年代の違いもあって色々種類が多いから。あの竜はどちらかしら?』


『サーモカメラで解析する限り、結構体温が低いな』

 爬虫類は体温が下がるとどうなるんだ。冬眠するってことだろ。


『そうだな。当然動きが鈍くなるから、冬季は眠って過ごす。冬眠状態だとほとんど動かないし、栄養を摂取する必要もほぼ無い。その分蓄えておくわけだけど』


 伊部が冬眠の解説をしてくれるが、そっちじゃない。あの竜も変温なんだな。


『ああ。あの動きの遅さは天然というより、寒さの影響だと思うな』

 でも、あいつ雪の下にいただろ。


『この山は火山なんじゃないか。火山は活動中なら地中に近付くほど地熱がある』

 へえ、いい温泉があるといいね。火山のマグマが住処ってのはサラマンダーらしくていいんじゃない。つまり俺は竜と我慢比べをしろってわけだな! 凍え死ぬのはどっちが先かしら――ってバカ野郎。俺の方が体が小さいんだから、向こうが変温動物だとしてもいい勝負だ。向こうは体内で炎を吐けるんだぞ。


『いいえ、シュータ。加えて、物理的にも向こうが不利よ。ここは雪上の足場。バランスを取りにくいのは向こう』

 いや、バランスの問題か? ミヨはなぜか自信満々だ。


『あれだけ大きな体なのに短い足。首も長くて頭も重そうだわ。尻尾で何とかバランスを取っているけれど、斜面では体を支えるだけでも精一杯だと思う。今にも首がポッキリいって、膝が割れそうなんじゃないかしら。足元を崩せばすぐ転ぶわ』


 そんな間抜けな進化を竜がするわけないだろ。


『肉や骨、血液の量も体が大きくなれば、当然増える。それだけの重量を動かす筋肉が必要になるけど、筋肉まで増えたら今度は支えるための骨が頑丈にならないといけない。鉄筋くらい硬くて重い骨を持っているはずよ。しかもそれだけの体を動かすには膨大なエネルギーが要る。となると、体脂肪で蓄えるか常時それに見合った食事をしないといけない。お腹が空いたら代謝が落ちて体温も下がるわ。ますます寒さに耐えられなくなる。悪循環のオンパレードなの。この環境でドラゴンは最弱よ』


 それはわかった。竜の動きは遅く、体を支えることも困難。だけど炎を吐くんだぜ。具体的にどうやって倒す? 伊部が妙案を思い付いたように言う。


『この状況をフルに生かそうぜ。ここは冬山だぞ。冬山の危険事項と言えば――』

『雪崩ね!』

 とミヨが大声で被せた。なるほど。足場が悪い以上、足場である雪を崩そうってわけだ。


『炎を吐くんだぞ。上手く山の上側をとって炎を吐かせる。シュータの下の雪だけ崩れたらこっちのもんさ。ドラゴンは抵抗もできず斜面を転がり落ちるだろう』


『良かったじゃない、シュータ。勝ったも同然よ』


 ミヨはニコニコしているのだろう。でも待ってくれよ。俺が斜面の上を取らないといけないじゃないか。それができれば苦労しないぜ。


『や・る・の! アンタそれでも私のヒーローなわけ?』

 へいへい。そろそろ寒いし眠れる勇者様が動いてやるか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ