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みらいひめ  作者: 日野
序章/竹取・石作篇 らいと版
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三.白山にあへば光の失する(8) らいと

「さあ、どこから手を付けるか。ノエルは奥から探してるらしいな」

「ねえ、シュータ。お腹減ったから、そこのお店でフラペチーノ買ってよ」


「空腹だから、早く美月を見つけて飯食いに行こうって俺は言ってるんだ」

「もう動けないわよ」


「うるさい。誰のせいだよ。余計に動き回って迷子になったヤツが言うな」


 ミヨは手を引いて店の方に行こうとする。俺は抵抗して直立不動で手を引っ張り返す。さながら喧嘩別れ寸前のカップルである。


「そんなに美月と会いたいんだ、へー」

「あのな。この際、美月かどうかはどうでもいいんだよ。迷子を捜すのが先決なんだ」

「ホントかしら?」

「面倒だが義務だろう。それに今回はお前を優先して迎えに行ってやった」


 苦戦していると、ミヨがいきなり俺の背後を指した。少し驚いたような顔で。振り返ってみるとそこには美月がいた。なんか、罪悪感というか後ろめたさがした。なんでだろう。


 美月も気まずそうに視線を彷徨わせている。俺はまだミヨの手をぎゅっと握っているのに気付いて放す。


「会えてよかった、美月。捜したぞ」

「……はい。ご迷惑お掛けしました」


「あ、ミヨは先に見つけといた」

「エスカレーターをお降りになる様子が遠くから見えました。ですから――すみません」


 美月は頭を下げる。妙に丁寧に。いつも丁寧っちゃ丁寧だが、最近はこんなに距離を感じることは無かった。不機嫌なのか、落胆しているのか、単に疲労が蓄積してるのか。ミヨもそれを察知した上でわざと気付かないふりをしている。


「まあ、会えてよかったじゃない。ノエルくんと落ち合ってご飯に行きましょ」

 美月は俯いたまま、うんともすんとも喋ろうとしないので、俺がノエルに電話で連絡する。フードコートで会おうということになった。俺たち三人は、無言でしばし歩いた。


 だだっ広いフードコートには人が溢れかえっていて、空席を確保するのに苦労した。昼としては遅めの時間だが、何とか座れた。席の場所を伝えると、ノエルは難なくたどり着いた。瞬間移動できるかどうか以前に方向感覚はいいらしい。


 ノエルは三人の先輩方の雰囲気を何となく察したようで、ただニコニコして座った。やっぱ優男ってこういうとき役に立たねえな。席次は俺の隣が美月で正面ミヨ、斜向かいがノエル。


「注文しに行こう。荷物置いて行くわけにいかないから、誰かが残って」と俺。

「じゃ、二、二でいいじゃない。シュータは美月と一緒に仲良く選んで来なさいよ」


 ミヨの軽口に何と反撃しやろうかと思ったがやめた。正面に座る二人の目線が美月の方に集約するのを見たからだった。見ると、美月は俯いていた。


「みよりんさん。からかうのはいい加減にしてください。シュータさんだって困ってるじゃないですか」


 俺たちは唖然とした。美月の強い拒絶の言葉を聞いたのは初めてのことだった。美月は俺たちの困惑に気付き、一瞬悲しむような顔を浮かべて謝る。


「すみません、そんなつもりじゃ……。忘れてください」

 そう言ったきり口を閉ざしてしまう。誰も口を利こうとしないから、仕方なく俺は立ち上がって美月にも来るよう誘う。美月は首を振った。


「いえ、水を差すようなことしてしまってごめんなさい。すぐどこかに行きますから。後は皆で楽しくご飯を食べていてください」

 美月はショルダーバッグを持って立ち上がり、席から遠ざかる。俺は手を伸ばして美月の細い腕を強く握った。


「美月がいなくなって、俺たちが楽しめるわけが無いだろう。とりあえず一緒にメシ選ぼう」


 俺は美月の手を引いて歩き出した。美月は苦しそうな表情で付いて来た。

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