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みらいひめ  作者: 日野
四章/大伴篇 琴詩酒伴皆拋我、雪月花時最憶君
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二十四.竜を殺さむ(2)

 電車に乗るのかと思ったら、駅の手前で横の道に逸れた。一度も通ったことが無いような細い路地を抜ける。小さい居酒屋やパン屋を横目に歩くと、ひらけた場所がある。どこにでもあるような公園だ。ブランコと鉄棒と中が空洞のドーム型の山がある。


 ここで童心に返って二人で遊ぶか。このドームが牢屋でケイドロしようぜ。


「アイくん、急にお誘いしてごめんね」

 相園は拝んで苦笑いした。俺は驚いただけで嫌じゃないぞ。お前こそ、今日あんなことに巻き込まれたけど大丈夫なのか?


「うん、それは平気なの」


 相園がブランコへと向かうので俺もそうする。ちょうど二つの席がある。相園がブランコの支柱にリュックを置いたので、俺もそうした。座って一息つく。学校からここまで信号にも引っ掛からずノンストップだったから少し疲れた。


 ここは暗い。公園にある四つの街灯のほかだと隣の民家の窓明かりがぼんやり光るくらい。本格的に夜になってしまう。腕時計を見ると午後6時半。もうそろそろお腹が空いてくる時間だな。深雪?


「うへえ、緊張した。みよりんのオーラこっわ」

 ブランコに腰掛けた相園は足をふらふらさせて溜息を吐いた。


「二人で静かに話せる場所が良くてさ……。ほら、案外二人きりにさせてもらえないじゃん」

 学校近辺だと特にな。お前が有名人になるからだ。一年のときは副会長になるとは思わなかった。


「ふうん、アイくんだって友達いっぱいできて、人気者になるなんて思わなかったよ」

 俺も正直ここまで友達の輪が広がるとは思わなかった。ほとんど美月とミヨのおかげだ。二人の明るさと可愛さの結果だ。


「私はアイくんが人気者になるのを複雑な気持ちで眺めてた。私の手の届かない所に行ってしまって別人みたいだったから。だからこうしてもう一度アイくんに干渉できることを喜ばしく思うのです」


 そうかい。相園は胸を張る仕草。俺は笑ってしまう。ブランコも揺れる。


「アイくんは、美月さんと出逢ってから大変なことがあったでしょ」

「何か、気付いていたのか」


 時々相園からそんなことを言われた記憶がある。陰でいざこざに巻き込まれていることがまさかバレているのだろうか。


「んー、まあよく知らないけど、みよりんも含めてバタバタしてるのは知ってる。副会長ですので」


「副会長だからって何でも知っているとは限らないだろ。でもまあ、大変だったのは本当。美月は想像を絶する箱入りお姫様だし、ミヨは常識知らずのお嬢様だ。それに俺の周りは変わった馬鹿ばっかだ。そりゃ面倒臭がりには疲れる」


 相園は予想外にもくすっと笑うだけだ。そこに深雪もいれば良かったな。


「美月さんと一緒だと楽しいですか?」

 相園はマイクを向けるように手を伸ばす。照れ臭いのでブランコを漕いでしまう。


「楽しいよ。本当に、美月がいてくれるだけで」

 美月のせいで痛い思いもしたし、苦しいことも多かった。だけど後悔はしていない。美月のおかげで成長できたよ。


「器が大きくなったね。その意気じゃ、きっと私が無理にでも止めない限り、命まで投げ出すつもりでしょ」

「当たり前だ。たとえ火の中水の中だ。俺は王子様なんだろ?」


 今度は相園が大笑いした。そんなに馬鹿にされるようなことか。抱腹絶倒だな。


「柄じゃないなと思って。アイくんは高望みしないで、平凡な幸せを掴めばいいのに」

「もう後戻りできないしな」


 相園が立ち上がった。俺の目の前に立つ。見下されると怖いんだけど。


「大事な話がしたい。だから場所移そう。あの山に登らない?」


 指差す先はドーム型の遊具だ。俺は拒否する理由も無いので付いて行った。ブランコを立つ。二台のブランコはふらふら前後に揺れたままだ。そこで俺たちのリュックを見守っていてくれ。ふもとまで行き、出っ張りに手足をかけて一気に上へあがる。相園は回り込んでロープを掴み、登って来た。


「あれ、ちょっと斜面が急かも。怖い!」

「まったく。手ぇ貸せ」


 俺は相園の手を引き上げた。二人で並んで頂上に座り込む。意外と高い。きちんと座ってないと滑り落ちそうだ。怖いか? なぜか右手を恋人つなぎされてますが。


「へー、これ恋人つなぎって言うんだ。ラブコメの読み過ぎじゃない?」


 指を交互に組み合わせる握りだぞ。俺だって初めて女の子としたぞ。


「初めてにこだわるって、童貞っぽい」

「俺は童貞だぞ!」

「大きい声で言わないでよ、気持ち悪いから」

 気持ち悪いはアウトだろ。なのに手は放さないんだな。相園の表情を窺うと、平静を装っているように見えて、黒目が泳いでいる。さては緊張してるな。こいつだって男と手を繋いだ経験が多いとは思えない。


「う。してない」

「目が泳いでる。ほら、よく見ると――」

「ち、近いよ!」


 バカ、落ちるから身をよじるな。スカートもめくれるぞ。危ない。ったく、自分が上の立場にいないと落ち着かないんだな。俺は姿勢を整えた。手は放さず。

幕間の不条理劇 10


深雪「……」

ノエル「……」

冨田「……」

坂元「……」

ルリ「……」


相田「アルクが再PUだと? じゃ、あいつらは……」

伊部「おそらく二年前、石が足りずに召喚を見送った者達だ。面構えが違う」

……………………

……………

……

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