三.白山にあへば光の失する(7) らいと
「あれ、シュータ先輩どうしたんすか?」
コーヒーを片手に持ったノエルが、俺の座っていたソファーの隣に腰掛ける。俺はショッピングモールによくある通路のソファーに腰掛け、休んでいたのだ。流石にもう付き合いきれない。お前はいいよな、のこのこ帰って来やがって。ノエルはクスっと笑う。
「いいじゃないっすか。平和で」
「これが平和なら、平和には体力と忍耐がいるみたいだ」
「そうかもしれませんね」とノエルが笑う。俺の方を見て、
「でも、楽しいでしょう?」
俺は回答をしかねる。家で寝ているよりは有益な時間の使い方だと思う。
「どっか行こうぜ」
俺はノエルを連れてエスカレーターに向かった。ノエルはニコニコしながら付いて来る。
「叱られますよ、きっと」
「シュータ先輩、自分で自分を叱る気になりました?」
ノエルがさも愉快そうに訊く。いやまったく俺がアホだったとしか言えまい。女子お二人さんが迷子になった。午後一時になり、昼食をとるため電話でミヨに居場所を尋ねたところ、二手に分かれたまま美月とは会えてないと言う。
どこにいるか、近くの店は何だと尋ねたが、全く要領を得ない答えが返って来た。俺の推察では、三階の百均辺りだ。美月にも確認を取ったが……自力で合流できるならとっくにしてるよな。
「どうします? 捜索範囲はかなり広いっすけど。下手したら半日掛かる」
「あいつらにはその場から絶対動くなって言っといた。とりあえず迎えに行く」
ノエルは苦笑して頷いた。まさか二手に分かれて洋服探しに行ってどっちも迷子になるなんて予見できなかっただろうからな。ミヨ、お前はこういう未来こそ見ておけよ。
「シュータ先輩はどっち迎えに行きます?」
「とりまミヨ。美月は二階にいることしかわからなかったが、ミヨの方は見当つく」
「なるほど。みよりん先輩ですか」
ノエルに美月捜索を任せ、俺らは出発した。こっちは一階の家具店で男二人、ふかふかのベッドやマットレスを見て時間を潰してたもんだから、目的地は遥か遠くだ。腹減った。
――二十分後、ミヨ発見。ちょっと捜したら見つかった。存外、雰囲気とか立ち姿で判別できる。ミヨは写真屋の前で手持ち無沙汰そうにサンプル写真を眺めていた。
「おい、迎えに来たぞ」
「We are walking down the aisle.」
ミヨはこっちを見ずに、ただ写真を見ていた。どうやらウェディングドレスを着た花嫁の結婚式の写真らしかった。何枚か飾られているのに向けてぼやーっと目を遣っている。
「ミヨ。昼飯にしよう。美月も早いところ発見してさ」
「ねえ、シュータ。こっちのドレスとそっちのドレス、どっちが私に似合うと思う?」
ミヨが二枚の写真を交互に指差す。残念ながら俺の目はレンコンらしい。両方とも同じ白のウェディングドレスにしか見えない。きっと縫い方やシルエットが微細なところで異なるのだろう。その判断を俺にさせるなんて酷な話だ。
「駄目ね。もっと真剣になりなさいよ」
真剣に選んだらどうなるんだ。いいよ、俺は将来、奥さんに好きなもの着て好きなことやってもらうから。どうせ男が口を出したって足手まといになるだけだろうし。ま、ミヨなら何でも似合うだろう。スタイルいいから。
「……そう、かしら? いいんだ。シュータは本当にそれで」
どうでもいいことばかり議論してるな。ミヨはなぜか俺を審査するような眼を向けている。怒ったり、イライラしたり、拗ねたりするものと思っていたが。
「次は美月を捜しに行くぞ。ほら、荷物は持ってやるから」
なかなか動こうとしなかったので、しょうがなしにミヨの紙袋を持ってやる。ミヨはコクリと首を動かして付いて来た。エスカレーターで一階分下りる。




