表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
みらいひめ  作者: 日野
四章/大伴篇 琴詩酒伴皆拋我、雪月花時最憶君
504/738

二十三.神の助けあらば(35)

 閉会式で整列させられることとなり、グラウンドに並んだ。空は青く晴れ、風が涼しくなってきた。国旗後納が終わって校歌を歌う(俺は口パク)。正直、俺はこっからどうしようかなーと上の空である。俺は真実を知りたいのではなく、相園を守りたいのだ。なるべく穏便にこの話に決着をつけたい。ひとまずは――


「ふあぁあ」

 力が抜けた。俺は膝から崩れ落ちる。振り返ると冨田が膝カックンしていた。


「やめろっ」

「ちゃんと歌え」


 小声で注意される。考え事してたんだって! 変な声出ちゃったじゃないか。片瀬や相園が軽蔑の目線を送ってくる。言っておくが、お前らのたくましい想像力が生み出すような状況じゃないぞ。ただの膝カックンだぞ。


「恥ずかしい。早く立てないの?」と相園。

「俺のは立ってないぞ」

「何言ってんのよ!」


 辺りがしーんとなるくらいの大声で相園がツッコむ。周囲の視線を受けて、俺も一緒に赤面した。


「お前ら、周りを巻き込む劇場型恋愛だな」

 冨田に呆れられる。確かに俺と相園は意図しない形で目立ちすぎる。ああ、そうだ。このあと時間あるだろ? 調査の結果報告を頼むよ。ちなみに体育祭の結果は、


「記録係、一年一組、金ヶ崎です。結果を発表します。紅組370点。白組…………(無駄にためる)…………425.2点。三年連続十七度目の白組の優勝です」


 白組が沸き立つ。つまりミヨたち偶数クラスの勝ち。俺たち五組は負け。ところで得点の端数はどこで生じたんだろうね。得点調整でもやってんのか。




 閉会式後にそのままクラス単位で集められて、簡易的に帰りのホームルームをする。それが終われば晴れて解散となるのだが、もちろん気分は重い。美月は、暗い俺の表情を見て、


「シュータさん。見てください」


 フグの顔。変顔した。いや、いいんだ。別に笑いたいわけじゃないし。可愛いよ。――美月はがっかりした。ホームルームが終わり担任に帰るよう命ぜられて、俺たちは立ち上がる。本来なら用具係として片付けに勤しむべきなのだが、今日はそうもいかない。片付けは佐奈子たちに任せるか。


「美月ちゃん、えらーい! 相田くんのこと励まそうとしてるの?」

 福岡が美月を背中から抱き締める。美月は照れ臭そうに福岡の腕を握る。


「そ、そのつもりでしたけど。もう私にはこれくらいしかできることが無いので」

 福岡は一瞬黙ってから、「そう言わずにさ」と美月にかまう。冨田は拝んでいた。


「俺は女の子が二人で純粋に仲良くしてるのもイケるんだ。清潔で美しい花のように見える。アイもそうだろ?」

 さあな。羨ましいとは思う。


「アイちゃんならわかるだろ?」

 冨田が相園に問う。女子に訊くな。


「深雪、百合って知ってるか?」

「ゆ、ゆり? なんのこと話してるの?」

 ほら、やっぱ知らなかった。相園は何かエッな話を振られたと思ったのか、かなりドギマギしている。ったく冨田はくだらない知識ばっか蓄えやがって。テストも頑張れ。


「あ、アイくん。この後のことなんだけど」と相園。

 そうだな。話しておかないと。俺は汗を袖で拭う。


「目星はついているんだよね? 単刀直入に訊くけど、私はアイくんに付いて行った方がいいのかしら」

 俺は考えた末に、どちらでも構わないと思った。知りたければ来い。そうじゃないなら聞かない方がいい。後悔する可能性も無いわけじゃない。


「どうしよっか」

 相園が斜め下を向いて、独り言のように呟いた。しばらく悩んで答えを出す。


「私は当事者として、知りたい。私も巻き込んで欲しいって言った言葉は取り消せない」

「巻き込んで欲しい? そんなの聞いてないけど」

「あっ。いや、そっちじゃなくてっ――ていうか! 決めたことなの」


 何を慌てているのかわからないが、自分の心中では逃げないと決めたのだろう。だったら付いて来てもらうしかない。ところで、冨田から話があったのでは。


「お、そうだな。アイに頼まれた水道の場所調査だ。俺と岡ちゃんでグラウンド周辺を調べ上げた。今から簡潔に教える」

 助かるよ。冨田と福岡がドヤ顔している。表情が似てきた……。


「まず、グラウンド内の屋外には蛇口が付いた水道が四カ所ある。ちょうど四隅だ。蛇口の数は二個から四個まで様々だし、手洗い専用から足元まで濡らせる水道もあった」


「そんで、水がまき散らされているようなことはあったか?」

「無い。だって地面が舗装されているからな」


 なるほど。大方予想通りだ。福岡がさらに、


「本部裏の建物には水道とトイレがある。そこも、特に汚れているわけではなかったな」

 と補足する。あの建物の中にある水道は忘れていた。でもそこでないとすると残るは、


「校舎がある方の敷地でしょう」と美月。


 冨田が頷いた。そして、したり顔。何か発見できたのか?


「ああ、一つだけ屋外水道でしかも周囲に水が飛び散り、横に水溜まりの跡があった。今は乾いて固まっていたが、でこぼこへこんでいたから恐らく当時は泥状になっていたはずだ」


 なっ。そこまで綺麗に証拠が残っていたのか。どこの水道だ。流石に俺も前のめりになる。結構大事な証言だ。冨田は福岡に譲った。福岡が言うには、


「体育館裏の水道だよ。グラウンドから接続するところに一番近い場所」

 グラウンドから入ってすぐの所。それって俺がミヨのハグを受け取った場所の近くだ。そう言えば横に水道があったような記憶がある。ここなら事件現場ともさほど離れていない。


「ほ、他にも水道はあったけど、これといって怪しい形跡は無かった。スプリンクラーやホースが付いた蛇口も見つけたよ。でもたぶん無関係。それらしい様子も無い」


「つまりだ、アイ。俺たちが思うに犯人が泥をこしらえたのは、体育館裏の水道だ。日照り続きでどこも地面は乾いていた。アイが探し求める条件と一致したのはそこしか無い」


 上々だ。調査ご苦労。あとで何か願い事や欲しいものでも言ってくれ。今回だけは本当に役に立ってくれた。


「じゃ、スマートウォッチで」と冨田。

「私は図書カードでいいよ」と福岡。――前言撤回。


「と、とにかく皆、私のために動いてくれてありがとう。お礼言わせて」


 相園が頭を下げた。


「いいんだ、アイちゃん。この程度でよければ」

「そうだよ。深雪さんには、日ごろからお世話になってるし」


 冨田と福岡に逆に励まされて、相園は微笑んだ。


「じゃ、俺たちにできることはここまでだろーし、後は椅子片付けといてやるよ」

「私は荷物預かろうか? 頑張ってね。相田くん」


 さあ俺たちも行こうか。美月、深雪。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ