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みらいひめ  作者: 日野
四章/大伴篇 琴詩酒伴皆拋我、雪月花時最憶君
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二十三.神の助けあらば(32)

「綱引きって長いじゃない? だから横川さんが雑巾を持って来るって申し出てくれた」

「雑巾ですか?」


 美月が首をひねる。なぜこの流れで雑巾なのかと思うのだろう。


「俺が平均台の土を落として欲しいって頼んだからだろ? 暇ならお願いって言った」

「うん。それで横川さんは手ぶらで雑巾を用意しに行ってくれたよ」

「向かった方角はわかるか?」

「さあ。でも、雑巾は近くに無いんだから、校舎に取りに行ったんじゃないかな」


 だろうな。校舎だから、用具テントの真裏に向かってグラウンドを出て、校舎がある方の敷地に行ったのだ。それから?


「慶に声を掛けられた。暑いけど平気? って」


 そうだな。翁川の証言と一致する。ぽつんと座る佐奈子に声を掛けたのだ。


「しばらくして雑巾のバケツを持った横川さんが戻った。ここに置いておきますねって。ほぼ同じ頃に二人の委員も帰って来て、酒木さんも来た」


 酒木は退場門から用具テントまで戻るのに時間が掛かりすぎているな。


「そうだね。でも飲み物を買いに行ってたんじゃない? 戻って来た酒木さんは、キンキンに冷えた水を持ってたよ」


 ……そうだったか。俺がしゃがむ相園を発見したとき、佐奈子がペットボトルを抱えていた。あれが誰の物なのだろうとずっと疑問だったのだ。佐奈子は俺が綱引きに行く前、確かに何も持っていなかった。翁川も同じ佐奈子を目撃している。


「酒木は自販機で買って来たのかな。競技場の裏には自販機があるんだよ」

「かもね。だから遅れてやって来た。そのすぐ後だよ。生徒会の子が深雪を知らないか尋ねてきたのは」


 松原が来て、相園が捜索される。用具テント内でお前と松原が相園を発見する。そういう流れだったか。なるほどね。


「何かわかりましたね? シュータさん」と美月。

 そんなに顔に出てたかな。


「あの佐奈子。確認だけど、平均台はもう拭いたか?」

「うん。相田くんが深雪を追い掛けて、それから私が全部拭いた。綺麗だったでしょ?」

「ありがとう。四台も」


 平均台の脚以外の部分が綺麗だったのは、佐奈子のおかげだった。証拠隠滅じゃなかった。


「シュータさん」

 美月の大きな目がこちらを向いている。うん、わかってるよ。体育祭も佳境だ。俺だけが情報収集して悪かったな。今日中にケリをつけるから。


「佐奈子、酒木ってどこにいる?」



 次に行われるのは、最終種目である学年別の選抜リレーだ。ミヨが出るようだ。俺はカラーコーンをコーナーに配置する仕事がある。それで競技の準備は仕事納めになる。あとは片付けだけど、佐奈子に謝って任せることにした。やらなければならないことがあるのだ。相園にも会ったら謝っておこう。


 俺は、同じくリレーの準備に入る酒木に声を掛けるつもりだ。閉会式はリレーの直後に行われ、グラウンド内で結果発表と下校の合図がなされる予定だ。


「シュータさん。でも、もしそうならどういう意味なのでしょう?」

 困惑の表情を浮かべている。用具テントの日陰で休憩中だ。俺は今まで集めた証言を美月に話した。きちんと整理した上で。


「動機まではわからないよ。だから直接聞きに行くんだ」

 美月は俺の証言を聞き、俺と同じ結論に達したようだった。


「じゃ、仕事行ってくる。コーン置いて来るだけだから」

「気を付けてください。シュータさん、まだ転んでませんよね?」


 まだ転んでないとはどういうことだ。とにかく酒木に声を掛けないと。酒木は用具テントの外でコーン持参で立っている。グラウンド内で声を掛けに行くつもりだ。


 一年の女子を呼び出すというのも気が引けるな。コーンを持って走る中、彼女の姿を探す。どこだ、あいつ。日焼けしていて健脚だからよく目立つと思うのだが。


「ぐがっ!」

 ――転んだ! よそ見して歩いているからだ。幸い大した怪我も無いし痛くもないので、すぐ立ち上がってコーンを拾う。恥ずかしい。どこかでミヨやノエルが見ていると思うと腹立つな。


「大丈夫ですか?」

 酒木がいた。ニヤニヤしている。


「……大丈夫だ。だけどさ、この後付き合ってくれるか?」

「は、はい⁉」

幕間の不条理劇 7


冨田「あー、疲れた。赤本の赤は受験生の血しぶきの色を表しているのさ」

福岡「真面目に勉強しなよー。チャラ田きゅん」(かきかき)

冨田「俺はこんなクダラナイことに時間を費やしていたくないんだよ。学生の本分は遊びさ」

福岡「夏だから、遊びに行きたいのはやまやまだけど、だめ」(かきかき)

冨田「去年の方が充実してたぜ、ふう」

福岡「去年って?」(かきかき)

冨田「ガールハントに決まってんじゃん。俺の〈可愛い子リスト〉が着実に埋められていった、あの素晴らしき日々……。こんな過去問でノートを埋めるなんて馬鹿げてらあ」

福岡「ほんっと、チャラ田きゅんってば」(かきかき)

冨田「――ええっと、岡ちゃん。ずっと何を書いているの?」

福岡「デスノート」(かきかき)

冨田「?」

福岡「あなたが去年狙っていた女子の名前を、赤ペンで連ねたデスノートよ」

 かきかき、かきかき、かきかき、かきかき、かきかき、かきかき……

冨田「……」

福岡「……」

……………………

……………

……

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