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みらいひめ  作者: 日野
序章/竹取・石作篇 らいと版
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三.白山にあへば光の失する(6) らいと

「だーれだ?」


 あるショッピングモールの入り口に立っていた俺は、古典的な遊びをけしかけられた。例の日曜日にお出掛けするという約束を果たすために来ているのである。


 今日は快晴でポカポカした陽気。出掛けるのには最高のシチュエーションであり、早めに到着した俺はこうして入り口で仲間を待っていたわけだ。だから、たぶん先ほどの発言もその仲間のうち誰かであって容疑者は三人に絞られるのだが、声が男のものであるからして帰納的に、


「ノエルだな。気持ち悪い」


 と言ってやった。だが、予想に反して、


「声は俺です。でも、手は俺の物とは限らないっすよ」

 ふむ。と言うことは美月もミヨも合流しているのか。したがって、この手は美月の御手かもしれないと。俄然テンションが上がって来た。わざわざ休日を寝過ごさなかった甲斐があったってもんだ。


 だがミヨやノエルの手である可能性もある。しかしだ。ノエルは声を出しているから答えとしては退屈だし、ミヨはいかにもこういうくだらない遊びをしそうだからこれも違う。美月が仕掛けるというギャップで欺こうとしているはずだ!


「美月だろ。美月であれ」

 俺が振り向くと、すんとした表情のミヨがいた。


「なんだ、ミヨか」

「なんだとは何だ! 失礼しちゃうわ」


 お決まりの展開と返事をいただいた。少々不機嫌になったミヨ、右手後方にノエル、左手側には美月。お馴染みのメンバーが揃っていた。


「おはようございます、シュータさん」

 袖口がひらひらとした白の半袖シャツに、くるぶし丈で濃いめの青色スカートを身にまとい、シンデレラも面食らうほどのお洒落な変身を遂げた美月から挨拶を貰う。


「おはよう、お日柄もお召し物も良く」と俺は返した。

「普段そんなこと言わないくせに、なに浮かれちゃってんのよ、アホ」


 ミヨは要らんこと言うな。まあ、お前もお前で似合ってはいるがな。淡い黄色のブラウスにデニムを履いていた。皆、制服じゃないと雰囲気が変わるってもんだ。


「美月の服は私のお下がりなのよ、全部。今日はお洋服も買いに行くんだから」

 へーそう。何を買うのかは知らなかった。結局、集合場所と時間しか聞いてなかったからな。それもってことは、他にも何か用事があるのか。


「そんなに無いわ。ただ集まって遊びたかっただけよ。あとは部室の備品とかじゃない?」

 どうせトランプやリバーシを部費で買うのだろう。

「正解。よくわかったわね。おもちゃも予算として通るのよ。生徒会の目はレンコンよりも節穴なの。去年、私たちは実証済みだわ」


 そもそもSF研という部活がSF小説以外の何にお金を使っていいのか知らん。


「そんなのどーでもいいわよ。お金は使えるときに使っとくべきってアダムスミスだか誰だかが言ってた気がするわ。……そんなことよりも早速出発よ!」

 主にお前のせいで要らない会話が挟み込まれている気がするが。ま、いい。行こうぜ。



「いや、こっちもいいわ。これも着て!」

「ええっ。そんなに試着したら大変です。どうせたくさんは買えませんし」


 約一時間後、俺たちは服屋にいた。今は若い女性店員ばかりがうろついている店で女性陣二人の品定めを見学中。ずっとそこらの店をハシゴして、同じような服ばっか見ているもんだから、俺は飽きた。どうして女子は服一着を買うのに一時間以上掛けられるのかね。


 ちなみに、ノエルは逃げやがった。途中でふらっとカフェに避難したのであった。同行しようとしたところ、俺だけはミヨに引き止められた。ダブルスタンダードだ、まったく。


「ねえ、シュータ。どっちがいいと思う?」

 気付いたらミヨが俺に二着の服を提示していた。薄い黄色か水色のシャツワンピース、どちらか選べと。どうせ俺の意見なんか参考にしないだろうに、と思って直感で答える。


「青」


「……ふうん。あんた、青が好みなの」

 ミヨは特にそれ以上言うことなく悩み出した。


「私も青がいい気がします。シュータさんもお薦めしてくださってることですし」

 いや、適当に言ったのだが。すまない。ミヨはそれに決めたようだ。会計を済ませた後で……隣の店に入った!

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