一.黄金ある竹を見つくる(5)らいと
「まあでもよー、せっかくこうして元『三組』の四人で集まったんだし、竹本ちゃんを囲む会をしようぜ。あれこれ気になるからな」
冨田がニヤニヤする。腹立たしい。美月に下卑た感情を抱いたりするんじゃねえぞ。
「アイに言われたくねえ。ほら、確認したいことがあったんだろ? な?」
冨田が下手なセンタリングを上げた。昨日のアレね。俺が竹本が来ることを予兆できたというアレ。下手な口説き文句を、本人の前で言えるもんなら言ってみろという挑発らしい。
いいよ、俺だって気になってたんだ。女子二人はお弁当をつまみながら見守っている。あ、なんか恥ずい。
「あ、あの竹本さん。訊きたいことがあって」
「はい。何でもおっしゃってください」
「俺、竹本さんがこの学校に来ることを、何となく事前にわかったんだけど、なんでだろう」
竹本は大きな目を更に丸くして、首を傾げた。前髪も傾く。
「なんででしょう?」
だよねー。わかんないよね。キモいよな。すみません。
「な、ならさ、俺と昔にどこかで会ったことある?」
安い口説き文句だなとでも思って、冨田は歯を見せてニヤニヤする。しかし一方の美月は、またしても驚いて固まった。そうして隣に座る俺と主治医のごとく正対し、真っ直ぐ瞳を覗き込む。まるで俺の瞳の内から、何かを読み取ろうとしているみたいだった。
――やばい。近くで見ると、すごく可愛い。破壊力がすさまじい。なんて綺麗な子なんだろう。俺は自分でもわかるくらい照れて真っ赤になった。
「ど、どうでしょう。覚えていません……」
美月は少ししょんぼりしたように見える。俺は「そうか」とガッカリした。
「ほらな。アイのとっておきの小癪な手段も、竹本ちゃんみたいに純真な子には通用しないぜ」と冨田に馬鹿にされた。お前には言われたくねえんだよな。
「相田くん、いつもボケッとしてるから、変な夢でも見たんでしょ。夢だって百回、千回って見れば、そのうち偶然に予知夢だって見るよ」
福岡が至極まともな方に話をまとめたので、俺はもう何も言えない。そういうことでいいや。しかし竹本は俺を気にする素振りを見せている。もしかして変人と思われただろうか? また黒歴史が増えた。
「早速フラれたアイは放っておくとして、竹本ちゃんの秘密を暴いてこーぜ」
冨田がそう言うと、竹本は「お手柔らかに」と苦笑する。それからは俺の妄言など気にせず色々話した。とりあえず、竹本は皆のことを「相田さん」「チャラ田さん」「片瀬さん」「福岡さん」と呼ぶことになった。あだ名で呼ばれる冨田が羨ましいが、もはやこの世界でお前を苗字で呼ぶのは俺しかいないみたいだな。
食後、プレートを返却しに行く途中、竹本と二人になった。竹本は俺の方をちらちらと窺っている。気になる。
「えっと、どうかしたか?」
「相田さん。さっきの話ですが」
さっきというと、どの話だろう。俺が昔に会ったことが無いか訊いたやつだろうか。竹本は真っすぐ俺を見て話す。
「私から告白しなければならないことがありますので、放課後付き合ってください」
心中でびっくり仰天してしまったが、俗語の意味での「告白」でも「付き合う」でもないはずだ。そんなの俺が一番よくわかってる。だけど、話のトーンを聞く限り深刻な話なのかもしれない。実は生き別れの妹、とか。まさかね。
「相田さんは、信用に足る人物です」
昼休みに何を見定められていたのやら……。面倒事じゃなきゃいいけど。