二十三.神の助けあらば(24)
「深雪の件とは別で、金ヶ崎を捜している。見なかったか?」
「見てない。坂元ちゃんは?」
坂元は「誰それ?」と訊く。そう言えば、お前は転んで怪我したらしいけど大丈夫なのか? ミヨが言ってたぞ。坂元は眼鏡を押さえてニヤリとする。
「もちろん。転ぶことくらい想定済みですから」
そんな馬鹿な。膝には白い正方形の絆創膏が貼ってあった。想定済みなら転ぶなよ。
「んで、金ヶ崎さんとは? 相田くんと関わりがあるくらいだから美人なんでしょう?」
どういう意味だろうね。阿部はクスクス笑うが、相園は素知らぬ顔だ。
「金ヶ崎は肩まで伸ばした金髪がトレードマークの一年生女子だ。特別体は大きくないが、脚が長くて、坂元と違って骨が太くて体幹がしっかりしている。今日はメイクはしてないな」
坂元は「オゥ」と言って熟考した。心当たりがあるのか?
「救護テントにいるとき、その子を見たよ。本部の方面から来て、救護テントの裏を通って、退場門の方に通り過ぎて行った。金髪だから美月ちゃんかと思ったら、違う女の子だったの。金髪の女子って少ないから、たぶんそうなんじゃないかな」
「それって昼前だろ? 今さっきじゃないよな」
「そう。それからは見てない」
じゃあ意味ないな。もしかしてこっちに来てないのだろうか。じゃあどこに逃げたのだ。
「ねえアイくん。私が見る限り、金ヶ崎さんは来てないよ。私は後方警戒してたからなおのこと見逃したとは思えない」
「へえ。俺の思い過ごしじゃなければ、あっちなのかな……」
本部の裏を通ってないとしたら、逃げ道は多くない。ありがとう、二人とも。
「ところで相田くん。皆が何のうどんを食べたいか、わかった?」
うどん……何だっけそれ。
「まあ皆の好みは訊けばわかるからね。もうわかったでしょう。でもさ、一番大事なのは自分が何を食べたいか、だよね。それが結局最後までわからないのかもしれないな」
坂元、俺は暑くて頭を回すのに苦労するんだ。哲学の話は今やめてくれないか。俺はきちんと色んなことを考えているから。今は、この件に集中させて欲しいな。
「アイくん、うどん好きなの?」
相園はぽかんとしていた。
「なあ、阿部。改めて訊くけど、どこだと思う?」
「うーん。茂みですか?」
だから茂みって何だ。
「観客席の下はどうだろう」
俺たちは二階建てになっている観客席の建物に入った。人の往来がなく、空気がひんやりしている。ロッカーやアナウンス室などを横目に、トイレなどがある通路を抜けて競技場の裏に出ると、生垣や木々で陰ができている。建物の壁には黄ばんだ自動販売機が。喉乾いたな。汗を拭う。
「じゃあ私、強炭酸ソーダで」
「なんで俺がおごるんだよ。じゃあ俺はスポドリ」
……お金持って来てないんだけど。
喉が渇くから見なきゃ良かったと思っていると、すっと立ち上がった人影が自販機に小銭を入れた。機械の向こう側のベンチに座っていたらしい。金ヶ崎だった。ビンゴだ。本部の方面に逃げたから、この辺りにいると思ったのだ。
「えっと、先輩とそこの女の子は、これでいい?」
俺たちが所望した飲み物を買ってくれるらしい。俺と阿部はお礼を言って受け取る。で、早速いただく。喉を貫く爽やかな冷たさ。何物にも代えがたいね。
「すまんな、おごってもらって」
「いいの。あとで拓海にツケておくから」
ノエルのお金か。じゃあ何の罪悪感も抱かずに飲めるな。
「少し話したいんだが、いいか? 本当に少しだ。時間も無い」
「いいよ。ここなら拓海も来ないからね」
意外にもあっさりと金ヶ崎は受け入れてくれた。こっちは静かでいいな。グラウンドの騒がしさと熱気がものすごく遠くに感じる。俺たちはベンチに並んで腰かけた。阿部はどことなく不安そうに、俺越しに金ヶ崎を眺めている。
「拓海呼びっていいね。金ヶ崎さんだっけ? あなただけだよ」
「は、はあ? ウチは昔からそう呼んでんの。ほっといて」
「あ、私は阿部夕子。ノエルくんの元クラスメイトで、友達」
「どうせ好きなんでしょ。あいつ、見た目だけですぐモテる」
金ヶ崎は溜息を吐く。阿部は「違うよ」と否定する。
「私は、腹黒いノエルくんも好きだよ。金ヶ崎さんだって色んなノエルくんが好きでしょ?」
金ヶ崎は目を丸くして、黙った。かける言葉も無いといった具合に。
「あー、いいか? なんていうか、いきなりノエルの話題だとシビアだから、深雪の件から話したい。深雪が泥を投げられたことは知っているか?」
「何それ」と金ヶ崎は訊き返す。知らないみたいだな。簡単に事件の概要を話した。阿部にも詳しく説明してなかったな。
先日、北海道に初めて行ってきました。札幌と小樽です。
北海道に行ったことないのに、シュータたちの修学旅行で北海道を書いていた。
ウニは苦手だったんですが、朝市で食べた海鮮丼でウニの美味しさを教えられました。
美月の気持ちがやっと理解できました……。