三.白山にあへば光の失する(5) らいと
「伊部くんだっけ? よろしく。私は蘭美代よ。あなた、大学サークルの副々会長くらい、後輩でも話しやすい気さくなキャラっぽいわね。出会えて光栄だわ」
お前は大学のサークルの何たるかを知らないだろう。あと副々って何だ。
『ああ、みよりんか。ルナに負けるとも劣らない可愛らしいルックスじゃないか』
「あら、見る目があるのね」
ミヨがなぜか俺に笑みを送って来る。お前はよくそんなお世辞で満足できるな。初対面のときはもっと相手をよく見た方がいい。伊部が付け加える。
「言動からして、もっとイタい子かと思ってた。黙っていたらきっとモテるぜ」
「ちょ、イベくん!」と美月のお叱り。ミヨは怒りのあまり声も出ないといった雰囲気だった。あんな安っぽいヨイショを真に受けるからそうなる。
『で、そっちの素直そうな少年がノエルくんか』
「そうっす。綾部です。種々の未来事情を知りたいです」
『後でたくさん教えてあげよう。いい少年だ』
伊部は笑顔で応答する。ノエルと美月はどこに行っても好印象を勝ち取るな。
『じゃ、そこの特にこれといった特徴も無い男がシュータか?』
なんてヤローだ! そんなに俺は無味乾燥な容姿をしているのか。ざけんな。ミヨ、一緒にぶっ殺そう。初対面でそう思わせるなんて、絶対コイツ友達いねーぞ。
『アハハ、冗談だろ? ゴメンゴメン』と伊部がなだめてくる。
「いいえ、絶対に許さないわ。この時代ならね、そんな発言したら一発ハラキリよ!」
そうだそうだ。もっと言ってやれ。俺たちを怒らせたのを美月も悟っているので、
「すみません、皆さん。こういう人なんです。仲良くなってくださいとは言えないので、どうか一触即発の事態は賢明にも避けていただくしかなく……」
まあ、美月に免じて許す。正直気は進まないのだが、用事があるなら聞こう。
『用事ってのは特に無いんだけどな。ただ、俺たちのせいで超常的な事件に巻き込んじまってるのは詫びよう。君たちの能力も仕方ないものと諦めて欲しい。こっちの責任だ』
謝られたとて、だな。美月も深刻そうな顔で頷く。
『ルナが元の時代に『戻る』まで待って欲しい』
元の時代に戻る。そりゃいつかは帰るのだろう。
「先輩が帰っちゃうのって、いつなんすか?」とノエルが核心を突く。聞きたくないな。
『二年後、そこのみよりんやシュータが卒業するのと同じ年だ』
二年、か。高校生を疑似体験しに来たにしては半端な期間だな。
『それまで、ルナと一緒に何とかその時間軸の維持に努めてもらいたい。俺もできる限りのバックアップはするからさ』
ミヨは口をへの字に曲げながらも首を縦に振って承諾していた。ノエルは言わずもがな。
『おい、シュータ。聞いてるか? ルナのこと任せたぞ』
伊部はそう言って笑った。何が任せただよ。元よりお前に任せるか否かの権利はねえ。って、美月を任せられたのはどうして俺だけなんだよ。家を貸してるミヨにも言え。
そのあと、未来のことをノエルやミヨが矢継ぎ早に尋ねて時間を過ごした。俺は理解できない理論がたまに出る話に頭痛を催していた。そんなときは美月を見て癒しを得た。美月は目が合うと微笑んだり照れたりする。可愛い。
学友との歓談。未来人との交信。何とも形容できないが、日常であって非日常であった。




