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みらいひめ  作者: 日野
四章/大伴篇 琴詩酒伴皆拋我、雪月花時最憶君
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二十三.神の助けあらば(19)

「でも、何の台を使ったんだろうな」

「椅子じゃないでしょうか。パイプ椅子。そこにありますよ」


 美月が指差す。確かにテントの前方にはパイプ椅子が折り畳まれている。こちらは隣に佐奈子がいただろうから、使えないように思うな。ただ、そうじゃなくても生徒一人一人にはパイプ椅子が与えられている。準備は簡単にできる。パイプ椅子の脚は真っ直ぐな金属の棒だし。


「それは違うわ。もしパイプ椅子を使ったなら、椅子を片付ける機会が必要でしょ。用具テントの椅子がサナちゃんたちの視界にあるのなら、犯人にパイプ椅子を片付けるチャンスは無かったと思うけど?」


 ミヨに指摘されると腹が立つ。だけど、もし本当なら重要な指摘だ。状況を思い返してみる。相園がテントに来る。美月が後ろから接近する。犯人は椅子持参でテントに来る。犯人が踏み台の上から泥を投げる。美月が振り向く。相園も振り向き、逃げろと言う。美月がテントの裏から逃げる。松原が来る。佐奈子も駆け付ける。そして俺が。

 ――あれ? 犯人はどこで消えたんだ?


「美月は、テントの裏から逃げたんだよな? そのときテントに誰もいないのを見ているか」


 美月は「え? ええ」と眉をひそめる。


「記憶が定かではないですが、背後を警戒していましたから誰かいれば気が付いたはずです」

「ならミヨの言う通り変だよ。椅子を持ったまま犯人は逃げたってことになる」

 つまり、泥を投げてすぐ椅子を抱えて用具テントの裏から遁走したってことだ。椅子はテント内に放置されていなかった。他の用具テント内の椅子に紛れ込ませる時間も無い。椅子は持ち出されたと考えるしかない。


「あ、なら逃げた方向もわかるじゃない」

 相園が顔を晴れさせる。俺が言おうと思ったのにな。


「だって、私と美月さんはずっとテント裏を視界に捉えていたわ。そうなったら、犯人としてはテント裏を横切るわけにいかない。当然、サナちゃんたちの背中側――退場門の方向に逃げるしかなくなる」


 椅子を携えて、だ。それは不自然だろう。道具を移動させていると装うならまだしも、手が汚れているからな。汚れた手でパイプ椅子をトラック四分の一以上運ぶとなると、必ず目立つ。それをどこに置いたのかも疑問だ。生徒用テントまでは、トラック半周を移動しないといけない。


「他に踏み台があったってことだ。それも用具テントに放置できるような代物が」

 俺はテントを見渡してみる。段ボールは踏んだらへこむ。バトンは流石に細すぎるよな。だったら、一つだ。


「まさか平均台でしょうか」

 美月が疑うのもわかるよ。大きすぎる。でも適当なものがこれしか無い。平均台なら少し位置をずらすだけで持って来られる。あの真っ直ぐな土の跡と形も合致する。


「確かに、高さもちょうど良さそうだね。足跡が残ってないかしら」

 相園が平均台を見に行く。俺も続いて見てみたが、それらしき跡は見当たらない。


「そりゃそうでしょ。昼休み中に時間がたっぷりあったんだから、いくらでも拭き取れるわ」


 ミヨがやれやれと肩をすくめる。そうかもしれないけど確かめずにはいられないだろ。にしても綺麗すぎるな。平均台は四本あるけど、踏み台部分には汚れ一つない。あからさまだし、過剰な証拠隠滅に思える。あの雑巾で四本を拭いたのだろうか。犯人なら自分が使った一本だけで充分な気がする。どうして全部を綺麗に拭き取る必要があったんだ?


 ついでに平均台の足を見てみる。こっちは砂ぼこりで汚れている。あそこに跡が付くのも納得だ。やっぱり平均台は使われたとみるべきなのか。背の高い人物やジャンピングスローの可能性は捨てていいのか。


「あれ、相田パイセンがガチの顔してる」


 そこに実行委員の一年生トリオがやって来た。海老名は俺をからかうように笑い、酒木と横川は後ろで控えている。もう午後の競技の開始時刻が迫ってるじゃないか。続々と生徒がグラウンドに集合し始めている。昼休み中に犯人を見つけるのは無理だな。


 だからまずは、できることから順番にやらないと。こいつらも相園があんなことになったと知っている。海老名は俺と一緒に綱引きの仕事をし、女子二人は佐奈子と一緒に現場に居合わせたんだし。どうせ役立たずなのはわかっているけど、一応知っていることを教えてもらうか。


「ちょっと調べものをしてるんだ。あの件で」

「なるほど。先輩は優しいんだな」


 海老名はニコッとする。そう、俺は実力派イケメンなのさ。石島生徒会長のようにカリスマではないし、ノエルのように天才でもない。地道にコツコツやっててさ、やっと褒められてさ、泣けてくるね。何も持ってない凡人として生きるのは。

幕間の不条理劇 3


ミヨ「シュータ、ここで問題。デデン」

シュータ「……」

ミヨ「じゃあ、なんの問題にしようかなー。では、私の苦手なものは何でしょう?」

シュータ「調和、平和、昭和」

ミヨ「ブー。何言ってんの? そういうのじゃなくて」

シュータ「パクチー、セロリ、パセリ」

ミヨ「ブー。わたし、パクチー好きよ。パクパク食べちゃう。パクチーだけに」

シュータ「だじゃれ」

ミヨ「どういう意味よ。ブー」

シュータ「わからん。いい加減にしてくれ」

ミヨ「ダメねえ。正解は〈シュータと離れ離れの時間全て〉でしたー。なんてね」

シュータ「――んじゃそりゃ」

ミヨ「機嫌悪いの? ちなみにシュータの苦手なものは何?」

シュータ「クイズ」

ミヨ「……」

シュータ「……」

………………

…………

……

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