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みらいひめ  作者: 日野
序章/竹取・石作篇 らいと版
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三.白山にあへば光の失する(4) らいと

「やーっと終わったわ!」

 そう叫ぶとミヨはドシドシ歩み寄って来て、俺の前の席に座った。


「何が終わったんだ」

 誰も何も言わずニコニコしているだけなので、俺が代表して尋ねた。


「掃除よ、掃除。清掃当番なの。なんで掃除なんか高校生にもなってやらされるのかしら。しかもホウキ掃除って。魔女じゃないんだから今時ホウキなんて古めかしい物使わせんじゃないわよ。掃除機くらい用意しときなさい。こっちは高い授業料払ってんのに!」


「どうでもいいが、その一枚は俺のビスケットだ。なーに勝手に二枚もつまんでやがる」

 ミヨは荷物を置いて喋りながらも、しれっと目前のビスケットの袋を手繰り寄せていた。スリ師か。


「一枚ならくれるんだ?」

「俺のじゃない。ノエルから許可を貰え」と俺が一枚食べると、

「ふーん、アンタのじゃないの。ノエルくんいいかしら?」


 なぜ俺の物には許可が要らないと思っているんだろうね。


「あ、美味しいわね。でも、本日のメインディッシュはこっちじゃないでしょ、美月」

 ミヨは美月に振る。こいつも未来との交信というイベントがあるのを知ってたのか。だから急いで掃除終わりに来たんだな。


「では早速してみますか? 皆さん楽しみにしてくれているようなので」

 美月は目の前の何も無い空間を触る。すると黒板の前に大型テレビくらいのスクリーンが現れた。こいつは現実には無いものなのだろうが、本当にデカい画面が浮いているようだな。プロジェクターのような投影機とは違ってハッキリと黒い画面が映る。


「画面が暗いっすけど」

 ノエルの指摘通り、一分経っても何も映らなかった。美月は、


「おかしいです。待ってください」と慌てて後頭部をポンポン叩いている。昔の砂嵐状態のテレビじゃないんですから、手刀では解決しないでしょう。


「あ、点いたじゃない」

 若干飽きて頬杖をついていたミヨが言う。画面はまず白くなって、その次にある人物の姿を映し出した。痩せ型でメガネを掛けた男。こっちに気付いたらしい。


『お、見えたか?』

 そいつは俺たちに向かって呼び掛ける。服は襟の付いたラフなシャツ。手にはマグカップを持っていた。背景はのどかな海岸の街といった感じ。全く未来感が無い。


『ども、えっと初めましてかな。イベだ、よろしく』


 そいつは笑顔を見せた。胡散臭いな、というのが俺の所感。伊部と漢字を当てとこう。

「この人は、イベ・アキヒロくんです。あ、偽名ですが。すみません」

 美月が紹介すると、伊部はペコリと会釈した。俺たちも同じように反射する。


『ルナの紹介の通り、伊部ってことでよろしく。この実験のプロジェクトチーフだから存分に頼って欲しい。俺たちも君らのような協力者に頼ることになると思う。色々すまない。ルナとは昔からの知己で、あれだ、友達第一号』


「や、やめてください! もう、恥ずかしい」

 美月は顔を赤くして抗議していた。残りの三人だが、おわかりの通りポカンである。


「ルナってのは、美月のことか?」


 俺が尋ねると、美月も伊部も「あっ」と反応した。やがて伊部が笑って答える。


『そっちでは美月って呼んでるんだったか。こっちではルナって愛称なんだよ。俺はずっとルナって呼んでたから、ルナって呼ぶぜ』


 ふん、さりげなく仲の良さをアピールしやがって。隣に座る美月の恥じらうような態度が、逆になんだか傷付くな。俺の傷心とは裏腹に、ミヨは好奇心が高まってきたらしい。

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