三.白山にあへば光の失する(2) らいと
「さっきの冨田の話だけどさ、外見は個人を標榜すると思うんだ。美月はいかにも優しそうな美人じゃん。実際美しい心の持ち主だ」
片瀬や冨田が馬鹿にしたように笑った。同時に福岡が苦笑し、ミヨが唇を尖らせ、美月が真っ赤になるのを見た。片瀬は、
「確かに異次元の可愛さだけど、それは相田が美月ちゃんを好きなだけでしょ」
「そうよ、じゃあ私の外見はどう見えて、どう表れてるのよ!」
ミヨはとりあえず挑戦的な態度を取る癖があるな。
「みよりんも可愛いが、竹本ちゃんと違ってパワフルな――いや冗談だ!」
冨田の言葉に、案の定ミヨが鋭い眼光を注ぐ。冨田が要らんことを言って怒りを買い占めるお決まりパターンだ。
福岡は、大体冨田の味方なんかせず、
「みよりんだってそりゃ怒るよ。チャラ田くんは、デリカシー無いんだから」
「岡ちゃんまで怒ってるぞ⁉ 助けろ、アイ」
知らね。俺はこういうとき傍観して楽しむ。冨田はミヨや福岡からああだこうだと説教を食らって、それには片瀬も加勢していた。美月は……ま、一緒に観戦するか。
「皆さんお元気ですよね。私、ちょっぴり入れません」
美月がすっと俺の席に逃亡する。俺は苦笑いで出迎えた。
「そうだな。朝メシに何キロカロリー摂取したら、ああなれるのか知りたいもんだね」
「私はみよりんさんと同じご飯を食べてますよ」
「じゃあ、あいつは隠れてコソコソ夜食でも食ってるんだ。それか、朝だけ元気で授業中にはエネルギー不足で寝てる。あ、早弁してるかも」
「ええ? シュータさんじゃないんですから」
「あの、美月。俺は寝ることはあっても早弁はしない」
ふふっと美月が笑う。こうしていると、美月とは普通の友達くらいにはなれそうな気がする。出会いのきっかけは先月の諸々の事件だったから、以前は友達というより協力関係だった。最近は平穏な学校生活を送っているし、ずいぶん普通の同級生的関係が築けている実感があるな。
というか、もうホームルームの時間だ。ミヨ、帰れよ。
「あ、ホントね――じゃないわ。用件があったのよ」
ミヨは手の平をポンと叩く。用件と言われても心当たりが無いな。
「今から言うわよ。一つは部室に毎日来いってこと。なんで部活サボってるのよ。あんたこのままじゃ出席日数不足で卒業できないわよ」
部活動の出席が卒業の必須条項なんて初耳だ。そもそも俺と美月はSF研部員ではない。恐らくノエルと二人の部室は静かで面白みに欠けるのだろう。ミヨにとって、俺は暇つぶし用のサンドバックだからな。
「二つ目、今週末空いてる? 日曜日」
そりゃまあ空いてると答えようとしたところ、片瀬が遮って答えた。
「相田は三六五日、閏年は三百六十六日、暇に決まってるでしょ」
「うるせえ。空いてるけどな!」
暇人と言えば俺みたいにするな。で、日曜に何するんだ?
「お買い物に行きましょう。もちろん美月もノエルくんも一緒に」
「どうせ荷物持ちだろうが、なんで俺も行くんだ?」
ミヨは口を真一文字に結ぶ。
「それはね……美月がシュータとデートしたいって言ったからよ」
……は? 美月が?
「違うじゃないですか。昨日みよりんさんが――」
「だまらっしゃい、シュタみつ。とりあえず部室で細かいことは決めるんだからね。絶対来なさい。じゃね」
ミヨは駆けて俺たちの目の前から去って行った。嵐のように過ぎ去るとはこのことだ。残された美月は、豪風で新築宅の屋根が吹っ飛ばされた家主のように、眉尻を下げて小さな溜息を吐いた。あいつと一緒だと疲れますもんね。そこに福岡が、
「あ、相田くんはみよりんと、同じ部活なんだっけ?」
と、俺にというより片瀬に訊いていた。片瀬は笑って答える。
「入部はしてないみたいよ。でもみよりんとは何だっけ? SM研?」
そういう部活をお前は一度だって訊いたことがあるのか。
「いやいや、そんなことよりアイがいつの間に竹本ちゃんやみよりんと仲良くなってんだって話だよ。ホント、理不尽だよなあ。俺とアイの何が違うってんだ」
そりゃ冨田とは別物だ。特に脳みそとか。ここでチャイムが鳴った。
「俺が山崎闇斎なら、アイとは即座に絶交してるぜ」
闇斎は冨田みたいな小人に喩えられたくないだろうな。ま、羨ましい状況に自分が立っているってことは自覚してもいいかもしれない。美月は自席に帰るとき、俺に微笑みをくれたんだからさ。




