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みらいひめ  作者: 日野
序章/竹取・石作篇 らいと版
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二.深き心ざしを知らでは(19)らいと

「え、シュータさん⁉ と、どちら様です?」


 美月は瞬間移動してきた俺にビビッて、さらには俺の隣のヘラヘラした後輩の存在にも驚いた。ま、無事なんだろうとは思ったけどさ。傷一つ無いようで安心した。廊下の端で体育座りをしてるのはエネルギーを使い果たしたってことなんだろう。


「ただいま。こいつは、まああれだ。ミヨに飛行機を押し付けられた後輩の綾部だ」

「どうも、一年の綾部拓海です。あなたが美月先輩っすか、へえ」

 誰だってそうだったが、綾部も美月の美貌には感心しきりであるようだ。


「そして、こいつは異常者第三号だ。なんでも、瞬間移動できるらしいぞ」

 美月はあまりにハイペースで症例が報告されることに呆れている感じだった。本来は「瞬間移動なんてありえません!」とごねるべきところだが、


「なるほどー。お力添え感謝します」


 ま、第四号の話もしないといけないしな。俺は綾部に助けられたために目的地に着いたこと、犯人の超能力者、坂元をミヨが説得して止めたことを簡略に美月に伝えた。

 一応坂元が家族との関係に悩んでいたのだっていう動機の部分も言及したけど、美月にはピンと来ないようだった。事件が解決できたことを純粋に喜んでいるように見えた。


 確かに解決したのだから美月のように笑ってもいいんだろう。坂元は救出されるべきだった。その通りになった。だが俺は坂元の涙を確認してるし――なんか喜ぶ気分じゃなかった。


「でさ、世界は元に戻ってるのか?」

 体育座りを解消し、背筋を伸ばして立っていた美月に質問すると首を振られた。そこでずっと黙ってた綾部が口を挟む。


「見たところ、校内に人気ひとけがないっすね。消された人間たちはもういないんすか?」


 気付いてなかったが、辺りを見回すとホントに誰もいない。こんなにシーンとした学校はおかしい。さっきまでミヨと無音の校舎を走り回ってたから耳が静けさに慣れていたんだ。ってか、人が消えているとなると解決できてないんじゃあ。


「大丈夫ですよ。今から坂元さんを無力化して普通の人間にした上で、事件直前に時間を『遡り』ます。彼女を正常化して時間を『遡れ』ば元の世界になりますからね。今回は無意識に能力を使っていた可能性が高いですが。それで完全にこの事件は終了です。坂元さんは今も昔も将来も普通の人間になります」


 時間を「遡って」も坂元はもう変人にならないようにできるのか。そういう操作は未来のやつらがやるんだろうが信用できるのか? また「改変」するために世界をいじったら、今度は別の人間がヘンテコパワーを持っちゃうかもしれないじゃないか。


 だって美月が来たことで世界が「改変」されて俺やミヨみたいな超能力者が生まれた。要は「風が吹けば桶屋が儲かる」方式でこんなことになってるんだろ? 坂元を元通りにするのは平気なのかよ。


「問題ないんじゃないすか? 坂元先輩がそもそも世界の理から外れた能力を持っていたんですから、むしろ絡まった紐をほどくように、世界は正常に向けて一歩前進ってなるのではないかな、と思いますけど。あんま理屈はわかんないですが」と綾部。


 俺もわからぬ。未来のやつが言うんだから素直に従っときゃいいだろ。


「美月先輩、その技術で俺やシュータ先輩の能力は消せないのですか?」

 あ、そういやそうだ。坂元にできるなら俺たちにまで施して世界をもっと正常に近付けるべきだろう。美月はその質問に対し、力なく首を振った。


「できるならやっています。綾部さんは不明ですが、シュータさんとみよりんさんにはできないと解析されました。精神性のもので対処法が無いからです。坂元さんの場合、能力が本人を乗っ取って周囲に情報化させるための電波を飛ばしますから、脳の命令や電波をリジェクトすればいい。対処法がはっきりしているのです」


 わかるような、わかんないような理屈だ。綾部は苦笑いで、頷いたんだか首を捻ったんだか中途半端な反応。それよりもさ、


「じゃあ美月、事件発生前に時間を『遡って』もらってもいいか?」

「ええ。そうしたら、みよりんさんとも合流できますね。では、準備オッケーですか?」


 ミヨも心配だな。今頃、坂元は起きていたりするのだろうか。


「美月先輩、待ってください。俺は時間が『遡る』と記憶がリセットされてしまうので、その便宜だけよろしくお願いします。あと、俺は新入生歓迎会の途中なので、」


「んじゃ、終わったら校門前で待ち合わせな」

 俺が提案すると、綾部は頷いた。それでは美月、頼んだ。


「ええ。無事解決ですね」

 ――瞬き。恋しかったぜ、この感覚。

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