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みらいひめ  作者: 日野
序章/竹取・石作篇 らいと版
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二.深き心ざしを知らでは(15)らいと

「私の見解だけど聞いてもらえる? 私の意識の一部は時間軸の外の超越的立場にいるから未来が見えるし、時間軸内の『改変』に巻き込まれない。同様に綾部くんは空間的には超越的立場にいるから瞬間移動できるし、空間内の改ざんに巻き込まれないんじゃないかな」


 時間と空間、ねえ。綾部は、


「なるほど。俺は瞬間移動できるから、ある瞬間において存在する場所と次の瞬間に存在するであろう場所が確定していないので『超越』と呼んだわけっすね。俺のことを消そうとしようにも、どこに存在するのか不確定であるから、選択アンド消去ができないと。気付かなかったです。即興にしては鋭いっすね」と顎を撫でる。


 ふうん、へええ、なるほど、ははあ、よくわかった。じゃ、変人認定試験の必須質問をしておこう。


「お前は、昨日から時間のおかしな流れを感じ取っていたか?」

 俺もミヨも時間の異変に気付いたことが、美月を発見するきっかけになった。つまり変人の必須項目だ。だが、綾部はポカリとして首を傾げた。


「心当たりがサッパリ無いですが」

 本当なのかと思っていると、ミヨが俺の頭をポンポンハタいた。


「シュータ、これでいいのよ。綾部くんが時間の流れの異常に気付いてないってことは、さっきの私の説と矛盾しないわ。だって綾部くんは空間においては非常識な感覚を持ってるけど、時間に関しては普通の人間と違うとこは無いんでしょ? なら他の人と同様に時間の『遡り』を感知できないのは当たり前じゃん」

 ああ、そう言われたら納得、納得。


「ところで、今はどういった状況です? 一刻を争うって感じっすよね」


 その通りだ、少年(背が低く童顔だから青年よりは少年だ)。現在進行形で美月も危ない目に遭っている。こんな所で空想科学的談義をしてる時間は無いんだ。


「綾部くんに簡単に説明するとね、何者かが学校一帯を破壊して作り直そうとしている。その犯人がパソコン室にいる可能性が高くて、私たちは向かってるの」


 ミヨが俺の髪をピンとつまみながら早口で説明した。美月と比べて簡潔でわかりやすい文句だが、俺をいじりながらじゃないとお前は喋れないのか。俺も付け足しする。


「それでだな、この特別棟に入ろうにも、なぜか下駄箱にワープしちまってたどり着けないから、こうして油を売ってたわけだ」


 ミヨは「下駄なんて履いてるやついないでしょ」と俺の補足に不満げ。綾部はというと、ヘラヘラしていた。お前は緊張感に欠ける人間だな。


「パソコン室に行けたらいいんですよね? 先輩方、俺の能力を忘れてません? 俺が連れて行きます」



『・・・あ』



 俺とミヨの思わず漏れた科白せりふが重複する。渡りに船とはまさにこういうことだ。ちょっと上手く出来すぎな気もするが。


「とりあえず、パソコン室に向かえばいいですね? なら手を取ってください」

 綾部は手を差し伸べた。瞬間移動ってのはやはり能力者に掴まる感じなのか。額に手を当てないのには驚きだが、ポケットから馬鹿デカいドアを出されるよりは断然いい。


「お二人とも準備いいっすね? 到着先で鬼や蛇が出ないことを祈りましょう」

 移動する間、特に感慨か何かが生じることは無かった。あまりにも早かったのでね。



「わ、ほんとに着いたわね。もうパソコン室前だ」


 ミヨは驚きに目を見張っている。俺も同じくビックリだ。ここは確かに昨日訪れたパソコン室の目前だったのだから。廊下では情報化とやらが少しずつ進行しているが、まだ足場が結構残っている。相変わらず校舎は不気味なピンクの光と黒い影のコントラストで彩られていたが。


「すいません。パソコン室の中に入ったことは無いので部屋の前になってしまいました。ドアを開けて入りましょう」

 いよいよこんな事態を引き起こしたアホと対面できるわけか。とっととケリつけて帰ろうぜ。俺はドアを引いて「どうもー」と入室しようとした。が、しかしだな。


「何やってんのよ、シュータ。早く開けなさいよ」

「鍵が掛かってるぞ、これ」

 押しても引いてもビクともしない。まさか横開き戸ってわけでもあるまいな。


「じゃあ、体当たりして開けなさいよ。定番じゃないの。ミステリーとかで密室の部屋に入るときは、大人の男がタックルしてドアを破壊すんの」

 そうは言ってもだな、どうやらこれは金属の重厚な扉だぞ。どっちかって言うと俺の肩の骨がヒビ割れそうだ。我が身を案じていると、将来有望な少年が挙手した。


「俺が何とかしましょうか? 一応、去年まで空手やってて黒帯です」

「すごいじゃない! シュータの百倍役立つわね。ここは一任するわ」


 後輩にあっさり信頼度で抜かされた。構わないがこいつはマジで頼りになるな。ってゆうか、俺はミヨを背負ったままドアをぶち抜くなんて不可能に等しいだろうに。綾部はドシンと一発足裏で蹴りを入れてこっちを振り返る。俺は正拳突きを予想していた。


「半日かかるっすね」

 ダメだろ、それじゃ。そのときミヨが俺の鼻をつまんだ。


「シュータ。あれ見なさい。何か落ちてるわ」


 ミヨが足元を指差す。俺が屈んで目を凝らすと、ある物体がそこには落ちていた。薄暗い校舎の中でも近付けば、鈍く光りを反射するこれがバールだとわかった。バールだぞ。釘抜き。なぜこんな所に落ちている。これならドアをこじ開けるのにテコの原理を使えば有用かもしれない。だが、もう一回言うぞ。()()()()()()()()()()()()()()()()


「丁度いいじゃない! 綾部くん、それ使って開けて」

「これなら期待が持てそうだ」

 綾部はバールを拾い上げるとそれを戸の隙間に差し込み、グイと押す。ドアはその箇所だけ変形し、その作業を繰り返すことでドアの隙間が広がっていく。


「この向こう側に敵がいるんだろ? もし体長八メーターの化け物ならどうする?」

「八メートルもあったら教室内で立てずに寝そべるしかないはずだから平気よ。そうじゃないわ。私にはね、何となく見えていたの。恐らく向こうにいるのは――」

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