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みらいひめ  作者: 日野
序章/竹取・石作篇 らいと版
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二.深き心ざしを知らでは(14)らいと

「あんた、新入部員だったの! あらそう、これから二年間よろしくね……って言うと思った⁉ どういう経緯でこんな所にいるのよ。全然ナットクできないわ」


 俺も警戒心はかなり高めている方だ。こいつが情報化なんたらをやっている可能性が高いんじゃないか? 俺も含めて普通の人間が活動できる環境じゃない。俺たちは美月の後方支援があるから健在なだけで、生身ならとっくのとうにバラバラらしいじゃないか。


「うーん、どうしよっかな。確認ですがどうやらお二人も常人ではないんすよね? 簡単に、そちらの説明を聞かせてくれたらこっちも打ち明けます。フェアにいきたいんです。敵味方の判別がつかないのは俺とて同じですから」


 ミヨはやたら冷静な綾部を品定めして、


「渋々よ。大体を教えてあげる。このシュータは時間改変に記憶が左右されない、私はそれに加えて未来視。もう一人、遠くにいる娘は未来人で時間を巻き戻せる。これ以上は明かさないわ」


 綾部は二度頷いた。この話が真実にしろ嘘っぱちにしろ、充分に頭のおかしい連中だとわかっただろう。お前も同じくらい変態なんだろうな。


「今まで誰にも言ってこなかったんですけどね。もちろん自覚はあるんですよ。自分が普遍的な人類ではないことに。俺は、視界の範囲、もしくは行ったことのある場所に向けて――『瞬間移動』できます」


 俺もミヨもポカンと固まった。しかしそいつは今ここで実践して見せることで完璧に俺たちの疑惑をかっ飛ばした。


「こんな感じで」


 瞬きの間も無い。いきなり声が背後から聞こえ、そのときには前方に誰もいなかった。振り返ると、綾部が照れ臭そうに笑っている。


「信じてもらえますか?」


 この声も背中越しに聞こえた。またしても綾部は俺たちの背中側に回り込んでいた。


「…………嘘よね。こんなの絶対おかしいわ」


 俺もミヨをおぶりながら、複雑な気持ちを感じていた。あり得ないだろ。が、それはミヨにも美月にも当てはまるから俺はスルーしてやる。それよりも瞬間移動というケタ違いに物理法則に反したモノを受け入れる気にならない。


 俺の時間の改変に対する耐性とか、ミヨの未来予知はいわば脳内完結型の精神的なもので、物理をねじ曲げたりするもんじゃなかった。瞬間移動ってのはいくら時間移動の弊害とはいっても度が過ぎてるんじゃないのかね、未来の方々?


「信じてもらうために説明を加えていきますと、俺は小さい頃から瞬間移動できました。親や友人には一切バレないようにっす。バレたら面倒になるとわかってましたから。でも、常時その能力が発揮できること、発揮条件は視界の範囲か行ったことある所に限定されるというのを自分で発見しました。


 それで現在の状況ですけど、体育館で歓迎会に参加していたらいきなり周りの人間がパッと消滅して、俺一人残されました。段々建物が、ほら、あのように黒く変色してきたので普通じゃないことが起きてると思いましたね。一旦体育館から正門まで移動してみたんです。そうしたら無色透明の壁が張り巡らされているみたいで出られなかった。外に瞬間移動しようにも無理。そこで見えたのが、仲良くしていたお二人方だったと……信じられます?」


 信じないぞ。俺には美月がいるのに、ミヨというくるくるぱーと仲良くしていたなんて。真面目に答えるなら……ミヨが判断せい。


「そ。つまり綾部くんはこの情報化現象の犯人でも何ともない。被害者の一人と。まあいいわ。怪しい行動を起こしたらまた考え直すけど、とりあえず協力しましょうよ」

 ミヨは俺の上から綾部に手を伸ばすが、俺は体を捻ることでミヨの手を遠ざけた。


「俺みたいな素人目からの感想なんだが、一ついいか。お前は生身なのに情報化だか何だかの影響を受けてない。それってつまりお前が犯人だからなんじゃないのか?」


 綾部は困ったような苦笑い。疑って損という話ではないだろうよ。

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