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みらいひめ  作者: 日野
序章/竹取・石作篇 らいと版
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二.深き心ざしを知らでは(12)らいと

「――うわ!」

 ミヨの声が遮られる。叫び声を上げたのは美月だった。頭を抱えて床に突っ伏している。


「美月だいじょうぶ⁉ どうしたのよ。何かあった?」


 ミヨが青ざめて駆け寄る。俺だって美月のピンチとあらば、中国大返し並みの勢いでもって馳せ参じたかったがそうもいかなかった。先ほどまで薄く覆っていた水色のドームの外。外の世界が一変しちまっていたのに気付いたからな。まず空の色がおかしい。生ハムみたいな薄気味悪いピンク色だ。よって校内も光量が落ちて薄暗くなった。


 ――だけじゃない。校舎の壁や天井、床や窓など至る所がデジタルのバグ画面のように黒化して欠落している。世界の終末ってこんな感じだろう。戦慄が走った。やがて美月が声を発する。


「私は平気です。たった今、情報の干渉が始まりました。そのため私の体内のコンピューターを介して未来の研究所の者が何とか抵抗策を図っています。ですので、私自身に一時的に負荷がかかっている状況です。でも大丈夫。軽い頭痛程度です」


 いや、それでも許せん。このチンケな攻撃をしているヤローに、俺の全力フルパワーパンチをグーで一発お見舞いしてやりたい気分だ(同語反復)。何なら殺意ってやつを初めて感じたね。


「シュータうるさい。美月、私たちはどうすればいいの?」

「やってもらわないといけないことがあります。原因である何者かを捜し出して無力化してください。お二人で。私はこの場を動けませんので」


 待てよ。その「何者か」っていう超スーパーアホ野郎はこの近くにいて、それを俺とミヨがぶっ飛ばす? それはいいが、美月を置いて行くなんて俺は反対票を投じる。


「私も。美月が動けないのはわかるけど置き去りにはできない。それにこの防御はどうなるの? 美月と離れて防御の範囲外に出たら死んじゃうじゃない、私たち」


「ご安心を。二人には防御をきちんと付与します。ですが私は行けないのです。この状態では動きに俊敏さを欠きます。それは危険です。ほら、色が黒く変色している部分が建物に見られますね。そこは防御を敷いていても耐えられない情報解凍プログラムが侵食しています。それを避けつつ校内を進むのはできません。一応校舎の原型は保持できるようこちらも努めていますから、どうかお二人は黒い部分に注意しつつ、探索と解決を」


 美月は大粒の汗を流して力なく言う。こんなに辛そうなのに置いて行くのか、畜生。


「わかったぜ。美月も危なくなったら逃げて。でも一つ質問。どうやって相手を倒すの?」

 美月は精一杯笑顔を見せた。話すのすらしんどそうだ。俺がもっと頼りになるならな。


「わかりません! 何とかしてください! シュータさんの機転に委ねます」

 おいおい、笑えねーよ。ったく昨日と言い、今日と言い。


「ですが一つだけ。パソコン室に強力な情報の流れを感知できます。あるいはヒントになるかと。とにかく健闘を祈ります。どうかご無事で。あとお早めにお願いします」

 こんな無理難題――やるっきゃねーな。


「パソコン室って特別棟五階よね?」

 俺はミヨと手を繋いで走っていた。ミヨが無言で俺の手を握ったのだった。たぶん怖いんだろう。こいつでもさ。(元?)学年一の美人と手を繋いでも、ちっとも嬉しい気持ちが起こらないのはやはり緊迫感を肌に感じているからだ。校舎の所々には黒い穴が開いているようで、迂闊に踏み間違えられない。にしても趣味の悪い配色。


「パソコン室だろ? 校舎のスミもスミ。本棟から一番遠いとこだぜ」

 昨日行ったからな。よく記憶している。冨田と坂元って女子がいた。……んん? 坂元ってこいつの友達なんだっけ? 世間は狭いな。


「一旦、私たちのいる本棟を出て、一階の渡り廊下を伝って特別棟に行く。いいわね?」

 オーケーオーケー。手を繋いでいるというより、引っ張られているのか。

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