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みらいひめ  作者: 日野
序章/竹取・石作篇 らいと版
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二.深き心ざしを知らでは(10)らいと

「こっちはね、私と去年から同じクラスの石島康作いしじま こうさくくん。生徒会役員だけど、それは表の顔なの。裏の顔はボクサーでめっちゃ強いらしいわ」


 スパイじゃないんだから裏とは言わないだろう。その体はボクシングの賜物か。


「あはは。おおよそ実代さんの紹介通りかな。父が元プロボクサーで、僕はプロを目指してないけどずっとボクシングはやってる。平日は生徒会の書記なんだ。よろしく」


 そいつは俺にスッと手を差し伸べる。確かにいい手をしてやがる。俺は素直に握手。


「俺は――」

「そいつは相田シュータローね。シュータっていうの」


 石島はコクリと会釈して笑顔を見せる。次に美月にも握手を求めた。美月も握手をする。美月の微妙な緊張と恥じらいを見て取って、シンプルなジェラシーを感じた。


「そっちは美月。竹本美月よ」

「ええ。転校生の竹本美月です」


 美月の天使スマイルに、石島も俺のときの一・五倍の笑顔で返す。


「ウワサに聞いていた通り、ホントに美人さんだね。物語に出てくるお姫様みたいだ」


 美月はやはりこういう発言に対して明らかに動揺していた。お世辞なのか惚れちまったのか知らんが、「初めまして」の代わりに「美人」だの「お姫様」だの言う輩は信用ならん。きっと将来凶悪犯罪を――起こすことがあることもあるのだろう、たぶんな。


「絵になるわねー、二人が手を繋いでる様子は」

 ミヨのこの耳打ちには同意しかねる。まあ、確かに地獄絵図ってものがこの世にはあるらしいし。んで、ミヨには用事があったんだろう? 生徒会さんよ。


「そうそう、結局私を呼び出したのはなんで?」

 それを聞くと、石島は机に折り重なる膨大なプリントの中からクリップで束ねられた一束をミヨに手渡す。ミヨは裏返したりめくったりしていた。


「それは部長全員に渡してるものでさ。活動方針とか部員名簿とかを書いて提出してもらう、まあ毎年恒例の事務手続きなんだ。一応大事な書類だから手渡しなんだけど、期日……四月いっぱいまでにここに提出して欲しい」


 ミヨはうんうんと了承していた。机に似たような紙がたくさんあることから考えて、この石島というやつは、生徒会の面倒な事務作業を一手に引き受けているらしい。他のメンバーは恐らく一年生歓迎会の裏方や進行係だろう。


「オッケー。これを全部書けばいいのね。提出はシュータとかに押し付けるわよ?」

 押し付けるという自覚はありそうなのか。早いうちに処置した方がいいぞ。


「はは。誰でも構わないよ。俺か相園さんっていう二年の女子役員に渡して欲しい」

「あ、相園深雪に、俺が?」

「どうしたのよ」とミヨは俺の狼狽を悟った。

「何でもない。が、俺は引き受けないからな。どうして部外者にそんな責任を――」


「部外者とは何よ! 二人ともSF研に入るんでしょ!」

 絶句したね。スピーチ内で言っていた確保済みの「二名の部員」とはやはり俺たちだったらしい。つまり、だ。こいつは本当にまだ二人しか候補生を集めておらず、マジもんのピンチだ。


 俺は引き受けないからな、美月も駄目だと俺は抵抗し、ミヨがブチ切れ。一悶着の結果、後でゆっくり話したまえ的な石島の仲裁を受けて講和条約を結び、生徒会室を出た。夕暮れオレンジの光が窓全面から差していた。


「んでさ、次こそ帰っていいのか?」

 俺の残りHPからしてほぼ活動限界だった。ミヨは腕組みをして思案して、


「そうね。今日は終わり、解散。でもその前に連絡先の交換ね。スマホ出して」

 俺はスマホをリュックから取り出す。電源ボタンを押すが……。


「あれ? 点かないですね」

 俺のスマホを見た美月が言ったのかと思ったが違った。美月のスマホも電源が入らない。充電切れ? ついでに俺も。んなバカな話があるか。俺は確かにフル充電で登校したはずだ。ミヨは不審がって警察手帳のように自分の画面を見せてくる。っておい。


「どうしたのよ。電波なら普通に入るでしょ」

「お前の充電九パーだぞ」

 ミヨは「うっそ」と確認する。確かにそのはずだった。昨日は俺だけだったが、今日は冨田も美月もミヨも? 偶然か否か。


「私、今朝百パーまで充電したわよ! ええ、きっとね」

「私も充電が原因でしょうか……。シュータさんの家で確実に充電したのですが」


 美月さん、さらっと爆弾発言しちゃダメですよ。ミヨにバレたらどうなるか。だが幸いミヨは瞑想して本日の記憶を喚起しようと試みているらし――違うな。


「未来の啓示ってやつか?」

「ちょうど来ちゃって。すこーし静かにしててね」


 ミヨは顔をしかめて首を捻り「何これ?」と呟いている。そして何度かリピート再生したのだろう、気付いたらしい。俺たちが死の間際にいたことに。

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