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みらいひめ  作者: 日野
序章/竹取・石作篇 らいと版
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二.深き心ざしを知らでは(8)らいと

 ――少女たちが活発にお話しているところ悪いが、そろそろ帰っていいか。もう用事は済んだだろ?


「あらら、ずいぶん話に熱が入っちゃったけど、もうそろそろ部活紹介の時間ね。体育館行かないと」

 ミヨは時計を見上げる。そういやミヨは部活紹介のために紙飛行機を飛ばしていたのだった。


「あの、みよりんさんは何部なのです?」

 美月が尋ねる。そういや俺も訊いてなかった。


「ん? 言ってなかったっけ? ここが部室なんだけど」

 だから生物室を昼飯会場に使っているのか。イシガメやら化石やらと同じ空間で食事したのは初めてだ。と言うことは、ここは生物部?


「私はSF研部長なの」


 俺も美月も立ち上がったミヨを見上げる。

「SFって、サイエンス・フィクションの略称ですか?」

「当たり前じゃん。サイエンス・フィクション研究部よ」

「へえ。ずいぶんマイナーな部活だな」

 俺の素直な感想を聞いて、ミヨは複雑そうな表情をした。そのままホワイトボードを元の位置に戻しに行く。


「元々はもっちー、えっと倉持有栖くらもち ありすっていう友達の誘いで入ったの。私自身は本物の科学にしか興味無かったんだけど」

「お友達も部員なのですか?」

「いや、その子はもういない」


 ミヨにも色々あったらしい。俺も席を立つ。


「ミヨ、お前に用事があるなら俺たちは帰っていいよな?」

 そう言うとミヨは即座にこちらへ飛んで来る。

「ダーメ。二人とも私の雄姿を見届けてもらわないと、死んでも死にきれないわ!」


 というワケで、体育館二階に俺たちはいる。体育館一階では一年生がすし詰め状態で整列し、ステージ上でパフォーマンスをする上級生をぼんやり観ていた。新入生歓迎会の目玉、部活動紹介である。


 もっとも去年の俺がこの催しをどう観賞していたかなんてほぼ記憶に無いので、大真面目に聞いている一年はいかほどやらといった感じだ。だが隣の美月は、さも興味深そうに見入っていた。ステージではこの平和な日本で弓をつがえた連中が四人ほど集まっている。


「弓道ですって。憧れちゃいますね」

 全然憧れない。美月が入部するなら入ってもいい。俺は壁に背を預け、美月は手すりに寄り掛かる。これが一年間この学校に通ったか通っていないかの違いだ。


「みよりんさんは、いつ出てきますかねー」

 順番は適当らしいな。そろそろ出番も来るんじゃないか? そんなに部活の数は無かったはずだ。予想は的中し、ミヨはステージ中央に一人で出て来た。左手にはマイクを持ち、右手は背中に隠している。


「ご紹介預かりましたSF研の部長、蘭実代です。この度はご入学おめでとうございます。高校生活には人生を左右するような出会いが必ず待っています。皆さんには自分から動き、新しい環境に飛び込むという経験をしてもらいたいです。これは一年先輩である私からのちょっとしたアドバイスです。善には駆け込め、です」


 案外常識的な話し方をする。最後がちょっとよくわからんが。


「では本題です。SFを皆さんはご存じでしょうか。ウェルズとか星新一とか。科学をモチーフとして、現実には実現できていないものを描くジャンルです。私たちはSFについて読んだり論じ合ったり書いたりしながら、比較的自由な活動をしています。現在部員は一名です」


 何だと?


「そこで、一年生の皆さんにお願いがあります。少しでもSFに興味があれば、ぜひ入部して欲しいのです。SFを愛する者であればみな歓迎します。部員が五名集まらないようであると大変無念なことに七月で研究会の廃止が確定してしまうからです。今のところ、私の地道な勧誘により二年生・二名の部員を確保できています」


 誰だその二年生二名は。


「少なくとも二人、どうか私たちに力添えいただきたい。必ずや皆さんの青春に彩りと活力を与える部活であると私は信じてやみません。時間ぴったりですね。これでSF研の紹介を終わりといたします。ご清聴ありがとうございました。部室で待ってるよ!」

 ミヨが礼をする。美月を含め、観客は拍手で応答した。


「素晴らしいですね、みよりんさん」

 そうか? 俺には下手な街頭スピーチにしか聞こえなんだが。


「ありがとうございました。では次の部――」

「あっ、待って深雪みゆきちゃん!」

 ステージ脇にはけようとしたミヨがマイクを使って叫んだ。何かに気付いて司会に待ったをかけたらしい。司会はショートボブヘアの女子生徒で、恐らく生徒会役員が務めているはずだが――あれは相園あいぞのだ。遠目から見ただけだから確証は無いがね。


「一個忘れてた! 一分でいいから時間ちょうだい」

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