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みらいひめ  作者: 日野
序章/竹取・石作篇 らいと版
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二.深き心ざしを知らでは(7)らいと

「シュータ、わかんなかったの? 美月が噛み砕いて話してくれたのに」


 ミヨに馬鹿にされたような視線を浴びせられる。くそ、てめえだってわからないことあっただろ。


「わからないというか、知りたいことはあるわ。タイムマシンがどういう仕組みなのか、ということとか」

 やはりアホだ。それはつまり時間を「遡って」きたに決まっているだろ。なぜそんなことがわからないんだ。俺がやれやれと呆れていると、美月は真面目な顔で首を振った。


「それは違います、シュータさん」

 なっ? ミヨはプププとあざ笑っている。


「だってそうじゃない! やっぱりシュータってアホね」

 俺は文系なだけ、俺は文系なだけ……。


「シュータさん。文系なら理解できないことがあって当然というコトワリはありません」

 美月が厳しい。しょうがないじゃんよ。時間を操作するって意味では同じじゃん。ミヨが仕方ないわね、といった調子で脚を組む。


「シュータ。時間の『遡り』はいわば『タイム風呂敷』なのよ。シュータが十年前に『遡ったら』、シュータ自身が六歳の少年になって、世界も十年前になっちゃうわけでしょ」


 わかる。文系でもわかる。渋々わかる。


「でも、シュータは千年前に『遡れる』?」

「確かにできねえな。俺はまだ生まれてないから、その時代には行けない。マイナス974歳になる」


「マイナス984歳です。シュータさん」

 美月がさらりと訂正した。……ふむ。


「美月の場合、まだ生まれる前の時間にやって来たのよ。それには別の技術が使われているんでしょう?」

 ミヨが確認を取る。美月はその通りと頷いた。アホとは俺のことだったらしいな。


「時間を『戻る』という風に呼びます。全く別の時間軸に移動することで、可能となるのです」

 時間を「戻る」ねえ。へえーなるほど。まあ「遡る」よりは「戻る」だよな。そう思っていたところなんだ。


「シュータ、全然わかってないでしょ」

 悪いか。


「つまりね、別世界に行くってことなのよ。十年前に『戻った』ら、十六歳のシュータは、六歳のシュータと対面することになる。机の抽斗ひきだしのタイムマシンと同じよ」


 猫耳ロボット的に言うならな。まあわかったぞ。俺自身が六歳に若返るか、俺がそのまま六歳の自分がいる世界に行くかの違いだな。世界も十年前の姿に復元されるか、現在の世界と十年前の世界が併存するかが違うんだな。


「シュータさん、流石です!」

 美月がキラキラしたお目めで俺を見つめた。ま、眩しい。


「つまり、時間を『戻る』ことはパラレルワールドを作ることなのです。二つは平行世界になるため、例えば私たちの時間軸と、シュータさんたちの時間軸は全く関連しません。こちらが『改変』されても未来は変わらないのです。よく理解されてます」


 そ、そうだったのか。美月の早口に圧倒される。


「どうだ、ミヨ。俺もそこそこ頭が働くんだ」

「マグレよ、マグレ。でも言ってることは正しいわ。問題はどこで平行世界を作ったかということよね」

「それでしたら……」


 美月がミヨに説明を始めた。生き生きしている。正直、こっから先はちんぷんかんぷんな理論上の問題になってしまい、耳で聞くだけじゃ充分に理解が及ばなかった。どうも未来のコンピューター上に千年前の世界を再現したのが、こちらの時間軸らしい。だが、つまり俺たちはコンピューター内のシュミレーター世界にいることになるのか、と思ったがどうなのだろう。


 美月は、世界はそのようにマトリョーシカ構造になっているから心配いらないのだとか言うが、まあ古代人である西暦二千年の人間には判断が難しいな。

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