十四.かぎりなき思ひに焼けぬ皮衣(12)
「お客さんなら、どこに案内されるとわからなかったわけっすよね? だからどこの席に座ったとて、その箱を持ち運んで机に突っ込む算段だったってことになります」
そうだろうな。場所は関係なしだ。でも、客であればどんなバッグを持ち込もうが勝手だから、箱の大きさは問題にならないと思うな。持ち込んで、店員の目を盗みながら机に入れるのはそんなに難しいことじゃない。
特に犯行が行われた机は、窓を背にしていたのだ。誰も背後は通るまい——ってそういうことか。
「背後が窓の席であることは予測できなかったか」
ノエルの理論でいくなら。
「ええ。であれば、上手く隠しながら箱を机に入れる手段があったのかなって」
「ノエルくんの話、ルリはビミョーだなって思います。だって店員はそんなに何人もいなかったでしょ。忙しく歩き回ってれば、どの席にいたって一瞬でバッグから机に移動するなんてワケないと思いまーす」
悪いけど俺もそう思う。色々検討するのは悪くないと思うが。
「わかりました。でも、もしお客さんが犯人なら犯行時刻は絞れそうにないっすか?」
営業が開始したのが10時頃だとして、美月が発見したのは12時。二時間以上空白の時間がある。
「その時間にホールを担当していた生徒に訊いても、一々お客さんの顔なんか覚えていないでしょうしねー」とルリ。
二時間もあれば何十人という客が来ているだろう。防犯カメラでも付いていれば別だが、犯行時刻が二時間もの幅があると特定は難しそうだ。全校生徒にアンケートをすれば名乗り出るかといえば、そんなこともあり得ない。
「誰か目撃証言があればいいんですがね。流石にあの時間にいたお客さんを突き止めるのは困難でしょうか」
ノエルは溜息を吐いた。目撃証言か。誰か俺の知り合いであの店に寄ったヤツがいないかな。それも午前中に。それがわかればヒントを貰えるかもしれない。
「シュータくんは友達少ないもんねー」
「うるせ。友達がいたって昨日の午前にどこに行ってたか知らないこともあるだろ」
昨日会っていたヤツらの顔と言葉を思い出す。カレーを一口。噛む。二口目。
「思い出せる人を順に挙げていったらいいんじゃないっすか?」
それもそうだな。
「冨田はナイ。あいつは始終可愛い女子を探していた。だから自分のクラスの店には行かないだろ」
冨田が犯人であるとは毛頭思わない。そもそも冨田の盗む機会が少なかったからだ。
「片瀬や福岡もあり得ない。ずっと美月と一緒にいたはずだから」
あの二人が怪しければ美月本人が疑っているハズ。
「次に会ったのは坂元だ。坂元もノー。坂元と会ったのは11時頃。俺たち三人で会った。そのとき坂元は食べ物を買い込んでいたが、それまでお化け屋敷で仕事をしていたと言っていた。つまり、六組のカフェには行く時間は無かっただろう。あいつ、直前には六組のカフェから出て来た佐奈子・翁川カップルに、パソコン室に行くよう指示したらしいからさ」
ハッキリ思い出してきた。パソコン室に行って、佐奈子・翁川に出会ったんだ。
「佐奈子・翁川って、あのキモい衣装を着ていた不感症女と優男のことですかー?」
ルリの中のイメージならそうかもな。
「あの二人は——あっ、午前中に六組に行っていたかもしれない!」
会話を思い出してみると、確かにそう言っていた。
「どうしてです?」
ノエルが身を乗り出して訊いてくる。覚えてないか?
「さっきも言ったじゃん。あの二人は六組のカフェに行ったんだ。で、六組から出たところで仕事上がりの坂元と対面した。ほら、午前中に行ってるだろ?」
「なるほどー。じゃあ二人に訊けば、何か手掛かりや違和感を教えてもらえるかもですね」
ルリは笑顔でスプーンを動かした。
「他には誰かいますか? 午前中に六組のカフェに行った人」
他に誰がいるんだと言われても、知り合いはそんなにいない……。
「一応ミヨのことも考えてみるが、ミヨは俺たちの喧嘩の後にカフェに行ったと言っていた」
演劇部の公演でミヨと出くわしたときのことだ。ミヨは店に行って、美月と会って違和感を抱き、福岡から喧嘩の事実を知った。その前にも店に来ていたなんてことは無いだろう。訊けばわかることだし、情報があったならば教えてくれただろう。
「あとは、石島とか?」
「あのイケメン生徒会長くんですね? あの人は忙しいって言ってましたケド」
うん。忙しくてゆっくり見てられないって言ってた。生徒会の人間はカフェに悠々立ち寄る時間は無いだろ。
同様に相園も忙しくて寄っていないと考えられるため、相園のことは口に出さない。この年下二人組にはイジられたくないってこともあるんでね。
「つまり、佐奈子さんと翁川さんという先輩が参考人ですか」
ノエルは最後の一口を食べきった。俺も完食。生徒が作ったにしては美味しかった。自慢の大きいチキンは食べられなかったが。




