十四.かぎりなき思ひに焼けぬ皮衣(11)
三人で、三年五組のカレーレストランに行った。正午と15分。チキン、野菜、グリーンカレーから選べたので、三人で違う物を頼んだ。都合よく端の席をゲットできたので堂々と空想科学的談義をすることにする。ここの教室はすごくカレーくさいけど、匂いが染み付かないかな。
「うーむ。美味しいです。シュータくんのチキンちょうだい」
ルリは俺の皿から大きなチキンを持って行った。ビッチに大チキンを攫われる、ってことわざがあったような、無かったような。
「で、どこまで話は進んだんです?」
ノエルはグリーンカレーだった。見た目は子供のくせにお洒落ぶりやがって。
「犯人は俺を狙っていた。で、ネクタイを盗み、呪いをかけ、返却して俺に着用させる。着用したのを確認して呪いを発動させる。これが相手の計画だと思った。そんで俺たちは、ネクタイの返却をいつ誰が行ったか。そこから犯人を特定しようって方針だ」
「もちろん、盗んだ人間と呪いをかけた人間、返却しに来た人間は同一とは限りません。でも相手が超能力者なら単独犯かなーと考えてやってます」
ルリの補足を聞いて、ノエルは頷いた。
「わかりました。文化祭一日目の話ですね」
昨日、ネクタイが戻って来たと発覚したのが12時頃だ。
「シュータくんは12時まで、ネクタイがどこにあったと思いますか?」
「俺が学校を捜索したのは朝の時点だ。8時から8時半過ぎまで、教室やロッカーを捜した。そのときに机の中も見たが、ネクタイの箱らしき物は入ってなかった」
8時台には無かったと思う。見つからなくて、二回以上は確認したのでハッキリ記憶している。
「それで9時の開会式に移動したんですね?」
そうだ。9時から開会式が体育館であって、全校生徒は体育館に移動した。
「じゃあ、その隙に机はがら空きでしたね」
ルリの言う通り、9時から9時半は開会式で、その間、机は誰の目にも触れていない。俺は8時45分には移動を始めたから、実質それより前にはもう目を離している。
「その間っていうのがあり得ますよね。開会式中は、努力すれば抜け出すことさえできました。それに開会式が9時半に終わって、すぐダッシュで教室に向かえば誰もいない教室に忍び込める。そうすれば誰にも見られず、シュータ先輩の確認を逃れて返却可能です」
そうかもしれない。ここら辺の時間帯は監視の目が無い。
「でも、目立ちますよねー? 開会式中に出歩いていたら」
生徒は全員体育館に集合しているんだからな。だが目撃者がいないなら意味ないだろう。
「9時半からはロッカーに荷物を取りに行って、更衣室でウェイトレス服に着替えた。で、三年のメイド喫茶に行ったな」
「メイド喫茶ですかー? 特別なご奉仕がされるとかいう」
ルリは野菜カレーの茄子を口に運びながらニヤニヤした。文化祭の店が風俗営業許可を出されるわけないだろう。
「体育館から店までずっと冨田と一緒だった。ただ教室には一度も寄ってないんだよな」
「つまり、六組のカフェが開店する前の開店準備、それと開店後の営業中も犯行が可能っすよね」
俺はカレーを頬張って頷いた。よく考えたら、文化祭当日は隙だらけじゃねーか。
「いや、でも待ってください。シュータくんの持っていたネクタイの箱はかさばるんじゃなかったですか?」
ルリが話題に出したので、俺はリュックからネクタイの箱を出す。縦二十センチで横七、八センチある。分厚さは数センチだけ。色は紺だ。テーブルの上に置く。
「これだな。確かに目立つ。抱えて持っていたら周囲の人間は気付くだろう。隠すには服の中とか、バッグの中に入れる必要があると思う」
「そうっすね。もし開店準備中に隠されたとするなら、六組の生徒が最重要容疑者ですけど、シュータ先輩のクラスの制服はそれを隠すのに適してないです」
ノエルの主張は正しい。男子は高校の制服のワイシャツとズボン。それに自前の黒ベストとネクタイを着用している。女子のトップスは半袖で、穿いているのはミニスカートだ。
――どう考えても、男女ともに衣服の中で箱を隠すことは不可能だ。
「じゃあ9時半の営業開始以降なら、六組の店員が犯人である可能性は低いのかな?」
ルリが首を傾げる。
「ちょっと待て。隠し場所を再確認すると、教室の窓際後方のテーブルだ。テーブルは四人掛けで、窓を背にした机二席と、廊下側を背にした机が二席だった。ネクタイが入っていたのは窓際の方の席だった。この条件だ」
六組の連中でも不可能だろうか。
「今更思い当たったんだけど、クラスメイトは美月と俺が喧嘩したことを知っている。結構な騒動になったからだ。と言うことは、もし誰かがネクタイを隠しているのを見ていれば、昨日か今日それを報告してくれるはず。だから、やっぱりコソコソ隠したんだと思う」
犯人は、六組のヤツらにバレることなく机の中に隠したんだろう。そういう条件下で六組の人間が容疑者と比定するなら、方法は限られてくるんじゃないか。
「そうねー。例えば、ネクタイの箱をバッグの中に入れておいて、開店準備中にそれを持って来て机の中にイン! みたいなことはあり得るかなあ」
ルリは自分のスプーンでカレーをすくい、ノエルに差し出した。俺はやれやれのジェスチャーをする。ノエルは困った顔をして「あーん」されていた。
「バッグの中に箱を入れて、人目を気にしながら机に入れたってことだな。不可能じゃないがバレる恐れがある。上手くやればできるだろーけど」
何でも上手くやりゃできるんだよな。でも、それじゃ話が進まない。
「営業中の話にしましょう。いつ営業が始まったんすか?」とノエル。
9時半ピッタリからオープンできるわけは無いので、9時45分、50分以降じゃないかな。
「ふーん。営業中は店員さんにチャンスはあるの? クラスメイトに?」
店員が机の中に箱を突っ込む? 無理な気がするな。
「ネクタイの箱が入れられたのは窓際後方の席だった。ここに問題があるんだよ。初日の朝、福岡が説明をしてたんだが、その席は1番テーブルなんだ。常にお客さんを案内し続けて埋めるテーブルなんだよ。客がいるならばひっきりなしに誰かが座っている」
店を開けている以上、その席は埋まっているので店員が箱を隠す時間は無いと思う。
「絶対にできっこないですか?」
ノエルが訊く。ノエルはもう半分食べていた。俺ばかり話をさせて、ちゃっかり自分は食べ進めやがって。
「客が出て行った後、掃除をするんだ。布巾でテーブルを拭く。その隙ならバッグを持って来て箱を入れることができる。だけど衆人環視の中、忙しいのにそんなことしないだろう。誰かが気付いてしまうはずだ」
「完全に不可能じゃないけど、できたとすれば奇跡。そういうことネ?」
そういうことです。つーことは、
「営業中の犯行ならば、犯人は十中八九お客さんっすね」
ノエルがまとめる。俺も同意する。




