十四.かぎりなき思ひに焼けぬ皮衣(8)
「ああ! 思い出したっ」
思い出すなって。
「私、後夜祭がつまんなかったから、もっちーと一緒に夜の学校探険したんだったわ。真っ暗な中、懐中電灯だけで学校を歩き回るって楽しかったわよ。だから、今年のウチのクラスでお化け屋敷やろうって提案したんだった」
ミヨは体育館にいなかったのか。じゃあ助かった。
「んで、深雪ちゃんに何言ったの?」
「それは深雪から訊き出してくれ。俺は口が裂けても喋らない」
「あ、深雪って言った!」
「それは、深雪ってお前が呼ぶからうつっただけ!」
「今日という今日は逃がさないわ。修学旅行のときのことも含めて、まとめて説明させてやるっ」
俺はその後、体調が優れないフリをして乗り切った。ミヨは途中で諦めて、去年のアリスと遊んだ文化祭の思い出を教えてくれた。俺も去年の二人に知り合っておけば良かった。
「じゃ、私はここで帰るわ。ノエルくん遅いわね」
「ミヨ、頑張れよ」
「ふふん。後夜祭まで参加しなきゃ駄目なんだからね!」
ミヨはそう言い残して去って行った。後夜祭に参加しろって、去年恥をかいた俺への当て擦りかな。ミヨに限ってそれはないか。精一杯のエールだろう。もうそろそろ体調も改善してきたし、お昼までには何とか元気になりそうだ。もう11時か。
——ガチャ。
「シュータくん? 具合はどうかな。ビンビンになった?」
ルリが保健室に来た。保健の先生には、友達ですよーという雰囲気で誤魔化していた。まあ、死神やメイドがいる校内だから私服でも不思議に思われないだろう。この患者はそっとしておいてもらえないのか、とは感じているかもしれないが。
「ノエルくんがまだ来ていないようなので、ルリがシュータくんを守りまっせ」
ルリは俺のベッドに飛び乗った。俺の膝の上辺りでペタンと座っている。
「お前、ノエルがいないからって俺の寝首を掻こうとしたな?」
「ルリはそんなことしません。〈ピー〉くらいはしたと思うけど」
じゃあ何しに来たんだ。俺は相園から貰ったお茶を飲む。
「だから〈ピー〉しに来たのに。実際は見張りです。信用されていなくても、ルリ自身はシュータくんが心配だからね」
俺はそこまでルリを疑っていないぞ。ネクタイ窃盗事件も朝の事故もルリの仕業じゃない。それは何となくそう思うんだ。
「何となくそう思う、では犯人にはたどり着けない気がします。シュータくんはそろそろ本気出した方がいいんじゃないの?」
本気って何の……って訊かないぞ。どうせ放送自粛用語で返されるのがせいぜいだ。
「あれか、犯人を突き止めろってか」
「そう。アリスちゃんの事件のときのシュータくんは非常に冴えていました。アリスちゃんの癖をよく見抜いていた。もしかして、今回の犯人もお見通しなんじゃない?」
それが全くなんだ。何も考えず楽しみ、喧嘩してしまっていた。
「ショックです。そこで、容疑者をパパッと絞ってくれたらルリも惚れたのに」
そんなこと言われても。犯人なんかわかりっこないでしょ。
「なよなよした男子は嫌いです。ノエルくんみたいにビシバシ躾けてくれる男子がルリの理想です」
あっそ。じゃあ方向性が違う。別れよう。
「え、ドMなんですか?」
「公共の場でそういう会話をするな!」
「じゃ、表に出ましょう。もう歩けるでしょ?」




