十四.かぎりなき思ひに焼けぬ皮衣(6)
俺は保健室の真っ白なベッドに横たわっていた。ベッドの周りには美月、ミヨ、ノエルがいる。ルリは周りの人から見れば不審に思われるかもしれないので保健室には招かなかった。
保健室は、健康診断のときにしか来たことが無かったが、ベッドが四つもあって、思ったより大きかった。
しかし楽しい文化祭の日に、体調不良で寝る生徒は俺以外いないようだ。つまり、独り占めしている。
「まさか、こんなことになるだなんて。私は本当に未来人失格です」
美月は責任感が強いから、さっきから椅子に座って自分を責めるような発言を繰り返していた。そんなに悩ませてしまって申し訳ない。
「とりあえず、原因はわかったんだし、シュータがこれ以上苦しまなくていいなら万々歳だけど」
ミヨも浮かない表情をしている。
「これじゃ、確実に犯人がいますね。シュータ先輩を狙っているんです」とノエル。
「そうね。これからシュータにはしばらく休養してもらうけど、絶対に一人にしては駄目よ。代わり番こで付き添いましょ。皆、シフト教えて」
そうして交代で見守りをしてくれることになった。悪いことしちゃったな。
「全然アナタは悪くないわよ。いつも私たちのために頑張ってくれてるわ。今日くらい恩返しさせてよ」
「奥さんか!」
「なっ、ななななっ、なんでそう思うのよ⁉」
「口調と科白がさ。いや、まあ今回は休ませてもらう」
ミヨはぶっきらぼうに掛け布団を直してくれた。
「皆でずっといられるわけじゃないからね。私は一回クラスに戻るわ」
9時から10時までが美月。10時から11時がミヨ。11時から12時がノエルの見張り担当だ。まずは美月と保健室で二人きりになる。
「シュータ先輩、気を付けてくださいね。ネクタイを盗んだ犯人と、先輩を殺そうとしてきた人物は同一人物である可能性が高いです。心当りがある場合はお気を付けて」
「ああ。二人とも、楽しんでな」
俺はミヨとノエルを見送った。
「シュータさん。10時からクラスで仕事がありますが、それは大事を取って休んでください」
二人だけになると美月がそう言ってきた。わかってる。今日はお言葉に甘えるよ。
「ごめんなさい、こんなことで文化祭を潰してしまって」
「こっちこそだ。美月だって本来なら今頃、準備をしたり遊んだりできていただろ」
美月はゆっくり首を横に振った。
「いいえ。シュータさんと一緒に楽しまなくては意味が無いのです。昨日もシュータさんとは別行動で文化祭を見て回りましたが、百パーセント楽しめませんでした。シュータさんと共に過ごさなければ意味が無いんです。ですから、保健室にいますけど、これはこれで思い出になります」
こんなに真っ直ぐ好意を抱かれていると、恥ずかしいな。
「俺も美月と一緒がいい。改めてごめんなさい」
美月は「いいんです」と言って笑いかけてきた。それから三十分くらいが経って、チャイムと校内放送が鳴った。本日の文化祭が開始したようだ。すると、保健室の扉が開いた。
「よー、面食いだけが取り柄のアイ。情けない姿をお見舞いに来てやったぜ」
カフェの服を着た冨田、クラスTシャツの片瀬と福岡だった。三人はベッドの傍に立った。
「相田って本当に残念な男子だね。文化祭もまともに楽しめないなんて。修学旅行でもお腹痛くなって一日損するタイプでしょ」
片瀬の辛辣な言葉が胸を刺した。それは言葉のナイフだ。いじめは駄目ゼッタイ。いじめはカッコ悪い。
「うるせえ。俺は病人だ。それに修学旅行で元気だったのはお前らも見てただろ」
病体に鞭打って反論する。いつでもダルそうにツッコむ。これが相田イズム。
「確かに。夏休みのアイが一番エネルギッシュだったな」
冨田の感想は当たり前だ。なぜなら中身がミヨだったのだから。……って、やっぱり俺は修学旅行で損してたわ。
「でも本当に可哀想だよね。ほら、皆楽しそうなのに」
福岡は窓の外を指差す。窓の外では、様々な恰好の生徒や、校外からやって来た保護者や地域の子供たちが行き交っていた。校庭はテントが張られて、店がいっぱい出ているから人気のようだ。昨日はノエルやルリと一緒に回って楽しかったな。
「なんか泣きそうだ」
「シュータさん⁉」
美月が本気で心配した。大丈夫。騒がしいのは得意じゃないから、そこまで惜しいと思わない。
「それにお見舞いありがとう。意外とお前ら、薄情じゃなかったんだな」
この三人は俺のことなんか忘れていそうだと思っていた。お礼を聞くと、三人とも笑顔になった。ま、俺は病人だが、もう少しくらい騒がしくしてくれていいぞ。うるさいと寂しくないからさ。
時間はあっという間に過ぎて、美月も含めて皆がシフトの入る頃合いになる。
「みよりんさん、遅いですね」
10時からって話で、今は9時45分。来なくても仕方ないだろ。
「いいよ。少しくらい間を空けても平気だ。行って来な」
「すみません。何かあったらお電話ください。すぐ駆け付けます」
美月と六組のヤツらはそれで帰って行った。元気づけたかったというより、からかいや冷やかしに来た感じだな、ありゃ。俺は静かになってホッと一息吐いた。正直、誰かがいると完全に休まらないよ。ふう。




